2010年11月12日金曜日

鉄道の世界史


小池滋他編 悠書館
2010年5月発行 本体4500円
四六版で751ページと厚めの本ですが、対象となる国が多数なのでそれでもページ数が少ないと感じるほど。 ヨーロッパ、北アメリカだけでなく、南アメリカ、アフリカ、東南アジアなどまで含めた50カ国ほどの鉄道の略史が地域別に収められています。各国の鉄道を創業から最近の事情まで、非専門家にも読みやすく紹介するとともに、世界の各地域ごとの特徴が分かるように工夫されていると感じました。イギリスやフランス・ドイツなどの初期の鉄道の歴史は有名なので知っていたこともありましたが、その他の国の鉄道の歴史については未知のことが多く、それを面白く読めたことは収穫でした。それに加えて、鋭い指摘もいくつもありました。例を挙げると
戦後の鉄道の発展史をみると、無傷の英米の鉄道が衰退の道を辿ったのに対し、破壊されたフランス、ドイツ、日本などの鉄道は、設備更新と近代化が進んだおかげで衰退を免れ、前進することができたのは皮肉な現象である
これはドイツの項119ページにありましたが、こういう見方もできるんですね。
現在のポーランドの鉄道路線網をみると、地域ごとに鉄道敷設密度が違っているのは、その部分の鉄道を建設・運営した「国」が異なっているためで、ポーランドの国土形成の複雑な歴史を如実に反映している。
これはポーランドの項、252ページにありましたが、白地図上に記された路線の密度が、旧ドイツ、旧オーストリア、旧ロシア領では確かにはっきり違っていて、その差の大きさに驚かされます。
多くの国の事情を解説した本ですから、執筆者も多数です。多くの人は、制約あるスペースの中で、非専門家でも読みやすいように、物語を書いてくれています。なので、読みやすい。でも、第10章ロシアのように、日付や地名の羅列に終始していて、非常に取っつきにくく感じる部分もありました。また、141ページのスペインの項には「1826年にブラジルなどの領土を失い」と書かれていました。こういう事実誤認が、ほかにもあるのかも知れません。とはいえ、楽しく読むことのできる本でした。おすすめです。

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