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2008年2月29日金曜日

樹木と文明




コリン・タッジ著 アスペクト
本体3800円 2008年1月発行

かなりおおげさなタイトルがついていますが、そんなに大それた内容の本ではありませんでした。各科の代表的な樹木に関するエピソードが全体の半分程度を占めています。それに加えて、植物の分類や進化、エコロジカルな事実と筆者の考えを集めたものが本書です。

生物の出現に関して細菌・古細菌・真核生物の3分類が(非明示的だが)扱われいることや、被子植物の分類に関してAPG植物分類体系が用いられていること、DNAによる種の同定の重要性、菌根の重要性などなど、最近の知見が良く取り入れられています。ただし、APG植物分類体系に関してクロンキスト体系との違いについての説明がされていない点などは、親切でないように感じました。

イチョウ、コウヤマキ、クスノキ、カバノキ、カキ(本書ではカキノキとなっている)など日本でも見られるものについてはどんな樹なのか分かりますが、見たことのない樹について書かれている方が多いのです。魅力的なイラストが添えられている樹もあるのですが、如何せんその数が少ない。例えば、グネツム目ウエルウィッチア属などは、その姿を知らずに読むのがもったいない感じ。できればwwwで樹の写真やイラストを探しながら読むのがよいのかも知れません。

多くの樹木に関するさまざまなエピソードが語られていました。個人的には、どこかで読んだことのあるお話の方がかなり多く、新たな発見がこの本の読書で得られたとは言いにくいと感じました。でも、一般的にはおすすめの方の本ですね。

2008年2月28日木曜日

すさまじきもの 枯れ葉残る冬の樹

落葉樹って、冬になればみんな葉を落とすかというと、そうとも限りません。イチョウなんかは潔く全部葉っぱを落とすけれど、枯れた葉っぱが枝にしがみついている樹も少なくありません。私の好みから言うと、枯れ葉が落ち残っていても風情の感じられるのは、ハナミズキくらいです。

でも、さすがにこの一週間は風のとても強い日が多かったので、枝がすっきりした樹が多くなりました。大國魂神社のケヤキの枝です。ここのケヤキは若葉の季節も夏もいいのですが、葉のない枝だけの姿もなかなかです。

2008年2月27日水曜日

麒麟ZERO


おいしい発泡酒に出会ったことがないので、ふだん発泡酒を買うことはありません。ただ、これの真っ白な缶デザインと糖質ゼロという点が気になったことと、キリンの低カロリー発泡酒である淡麗グリーンラベルが飲めない味ではなかったことから、1カートン6本買ってみました。

よく言えばのどごしのいいお酒、でも率直に言えば味が薄いというのが飲んでみての感想です。アルコール度数が3%と低いので切れがいいとは言えないし、糖質ゼロだからプレミアルモルツや琥珀エビスのような甘いビールが好きな私にとっては、余計に味がないと感じるのかも知れません。

ただ、味は薄いけれど、決してまずいという訳ではありません。100mlで19kcalということなので、ダイエットが気になるけれどアルコールは飲みたいという人向けですね。

糖質ゼロはどんな風に実現してるんでしょう。原料に含まれているデンプンをほとんど全て麦芽糖・ブドウ糖にまで分解して、酵母に残らず食べさせるようにしたり、酵母の発育に必要な栄養素(タンパク質?)を添加したりしているのでしょうか。また、アルコール濃度が高くなると、酵母の活動が低下するので、アルコール3%に押さえてあるのでしょうね。

2008年2月25日月曜日

光の春


街の中を歩いていると、敷地の鉄柵の鉄の棒のつくる影が道路に落ちているところがありました。この場所を、日の光を顔に受けながら、そして目をつぶって歩くと、まぶたの裏側にまぶしい木漏れ日がキラキラするような、そんな不思議な感じになります。

春分が近くなり、こういう長い影ができるのもあとわずか。今日も空気は冷たかったのですが、キラキラに光の春を感じました。

2008年2月24日日曜日

OS Xのソフトウエア・アップデート

MacBook Proは使っていない時、スリープさせてあります。今日もいつものようにスリープさせてあったのですが、突然ハードディスクの音が始まって、自動的に立ち上がりました。

何事かと思って見ると、ソフトウエア・アップデートがドックのはじっこの方で跳ねてます。iTunesとiLifeと、OSのキーボードとグラフィックスのアップデートがあるとのことなので、インストールして再起動しました。

ソフトウエア・アップデートの設定がどうなっているのか調べようと、アプリケーションのフォルダを見てみても、普通のアプリケーションではないとのことのようで、ここにはありません。システム環境設定の方にありました。


デフォルトで、重要なアップデートを自動的にダウンロードのチェックが入っています。そのために、スリープ中でも自動的に立ち上がったのでしょうね。これまでスリープから自動的に立ち上がるのを見かけたことがなかったのですが、外出している時や眠っている時に、知らないうちにスリープから起き出していたことがあったのかもしれません。

2008年2月23日土曜日

黄砂かな


今日の午前中は日が当たって暖かい陽気でした。でも、昼過ぎになって風が強くなるとともに、辺りがかなり暗くなってしまいました。雨が降り始めたのかなと思って外を見ても、雨は降っていません。遠くの方がかなりかすんで見えるのですが、これは黄砂なのでしょうね。4時過ぎくらいになって、また明るくなってきたようです。

2008年2月22日金曜日

確定申告

今日の午後は確定申告に行ってきました。この時期はこいつを済まさないと、どうもすっきりした気分になれません。所得税は改めて年額を確認すると高いと感じますが、長年国立大学に行かせてもらったこともあるので、まじめに申告納税しています。

私は勤務医、つまりサラリーマンなので、所得が多いからという理由で確定申告になっているわけではありません。外来診療を複数の事業所で担当していたり、市や医師会の仕事などもあって源泉徴収票が毎年複数枚になるので、確定申告をしなければいけないということなのです。

立川税務署の外に申告書作成会場というのが設定されていて、そちらに行きました。10年くらい前には、立川競輪場が会場になっていました。でも競輪の開催とぶつかるからでしょうか、実際、今日も競輪が開催されていましたし、ここ数年は元銀行の支店だった貸しビルが会場です。

で、毎年申告に行くたびに不思議に思っていることがあります。この貸しビルってふだんは何に使われてるのかなぁっと。この申告会場に使用されるのって年に2ヶ月くらいだろうと思うのですが、あとの10ヶ月だけなんてなかなか借り手がいないような気もするのですが。それとも、貸しビルって年に2ヶ月くらいでペイするんでしょうかね。

2008年2月21日木曜日

Macのソフトのマニュアル

昨日書いたような新規書類作成時の特別なウインドウの有無のほかで、最近のソフトと昔のものとの大きな違いって、付属の紙マニュアルの厚さというか量が一番かと思います。このファイルメーカーのマニュアルを比較しても、機能の豊富さとは反比例して、最新のver9の方が判型も小さいし厚さもかなり薄くなったことが分かります。


そのソフトに慣れている人や、アップグレードのユーザーにとっては分厚い紙マニュアルはほとんど必要のない(必要はあるかも知れないけど、ほとんど手にすることのない)存在なので、紙アニュアルが薄くなったこと自体は、地球にも優しいし、いいことなのだと思います。

Macのソフトは操作性がかなり統一されているので使いやすいとはいうものの、パソコンのソフトに慣れていなかったり、新規に購入してその分野のアプリケーションに初めて接するユーザーにとっては、紙マニュアル、特にチュートリアル用の紙マニュアルは重要な存在だと思います。

このマックドローProの入門ガイドはなかなか立派で150ページほどありますが、このくらいの冊子がふつうのマニュアル以外に付属していることが昔は当たり前でした。私の場合、このマックドローProとファイルメーカPro、Photoshop ver3のチュートリアルをマニュアルにそって実行することを通して、Macのソフトの使い方の作法を学びました。

MS Office2004のプロジェクトギャラリーの中にも、使い方ガイドというチュートリアルにあたるものが含まれています。内容は悪くないようですが、チュートリアルの実行という点では、紙のマニュアルを読みながらの方がずっとやりやすい気がします。

本屋さんに行くと、アプリケーションのマニュアル本がたくさん売られています。ああいうのって誰が買うのかなと以前からかなり疑問に感じていて、不法コピーしたユーザー、つまり正規の紙マニュアルを持ってないユーザーくらいしか買わないんじゃないかと思っていました。でも、昨今のように付属する紙マニュアルがどんどん薄くなり、チュートリアルは扱われていない状況になっていることを考えると、正規ユーザーでも買う人がいるのかも知れないですね。

2008年2月20日水曜日

OS X のアプリケーションでの新規書類作成

起動時・新規書類作成時に特別なウインドウが出現するのはPagesだけではありません。iWorkの中では、Numbersにはテンプレートセレクタ、Keynoteにはテーマセレクタというのがあります。


また、FileMaker Proにもクイックスタート、MS Officeにもプロジェクトギャラリーという名前のウインドウが立ち上げ時、新規ファイル作成時に出現するようになっています。Mac OS9時代にはこういうウインドウを提示するアプリケーションはあまり記憶にないので、これはここ数年の流行なんでしょうね。もしかしたら、Appleがこういうのを推奨してるんでしょうか??

で、これって利用されているものなのでしょうか。私の場合は、昔からの習慣で新規書類は白紙なのが当たり前だと思っているので、これらのウインドウをお節介に感じてしまいます。

この流行が始まってから後にパーソナルコンピュータを使い始めた若い人たちの場合でも、そのアプリケーションに慣れてくると、このウインドウは不要でしょ。また、ほんとの初心者にとっては、このウインドウがあっても使い方が簡単に感じられるとは思えないし、ビギナーが使い方を学ぶには良いチュートリアルの方が必要な気がします。

2008年2月18日月曜日

Pagesの新規書類

MacBook Proでは、メインのワープロとしてPagesを使っています。このPagesは立ち上げると、最初にテンプレート・セレクタという画面が出てきます。

昔から新しい文書は白紙から始めることに慣れているので、テンプレート・セレクタは表示せず、Pages立ち上げ時やCommand+Nとした時には白紙が表示されるように設定しました。

それで、この白紙なのですが、ただの白紙ではないのです。白紙のくせに、デフォルトでヘッダとフッタがもれなくついてくる仕様なのです。そういう仕様自体はまあ許すのですが、ヘッダ・フッタのない白紙が新規書類として出現するようにする設定がないようなのです。

私の場合、相当あらたまった文章を書く時でもない限り、ヘッダ・フッタなんて使わないので、新しい文書を書くごとにいちいちインスペクタからオフにするのが面倒に感じています。Pagesはアメリカ製ですけど、あちらでは文書にヘッダ・フッタつけるのが当たり前なんでしょうかね。

2008年2月17日日曜日

早生まれは多い

外来での仕事の一つに、基本健康審査で受診する方の診察があります。基本健康審査は、老人保健法で提供されている満40歳以上の方向けのサービスで、無料の自治体健診と思ってもらえればいいかと思います。2008年4月以降は制度が変わって残念ながら廃止されてしまいますが、この無料の市民健診を受ける人の数ってかなり多いのです。

市によって、健診を受けられる期間をX月からX月までと指定している場合と、お誕生月(とその前後)に受けられるようにしている場合があります。私が仕事している市の多くは、誕生月に受けられるようになっています。

この誕生月方式の市民健診をしていると気付くのですが、 夏・秋生まれに比較すると早生まれの人ってとても多いんですよね。冬場はインフルエンザや風邪なんかの患者さんも多いのに加えて、この健診受診者が増えるので外来は大繁盛。

ある診療所の40歳以上の患者さん5100名あまりの生まれ月を調べてみたところ、図のような結果でした。最多の1月は最小の6月の2倍近くなっています。

こんな風に月によって誕生日の人数が大きく異なる理由はいくつかあります。まず、昔の人には1月1日生まれとされている人がかなり多いのです。きっと 数え年という習慣があったからなのでしょうね。なので11月・1月より12月が少ないのは、本当は12月生まれなのに1月1日と届けられているからだと思われます。

また、農繁期を避けるように子供が生まれる月が選択されたとか、3月卒業後の結婚が多いからだとの説を読んだこともあります。でも、これだとこのグラフのようにはならないような気がします。

そこで、私が考えたのは、昔は冷暖房がしっかりしてなかったことが影響しているだろうということです。夏のムシ暑い時期には、肌と肌を接触する機会が減って、妊娠数も減っただろうと思うのですよね。冬はくっつきたくなったでしょうから、寒い頃に仕込まれた子供は多くなったでしょう。最近の月別の出生数は、昔のような月ごとの差がずっと減って生きているそうなので、これを裏付けてくれているんじゃないでしょうか。

2008年2月16日土曜日

交通安全の旗


街を歩いていると、「横断中」の黄色い小旗を見かけました。数十年前、私が小学生だった頃にはみどりのおばんさがいない交差点に置いてあって、よくつかったものです。でも、最近では信号の数が増えたせいでしょうか、目にすることが全くなかった気がします。

まだぴかぴかで新品の旗。小学生の登下校の時刻に通りかかったことがないのですが、使われているんでしょうか。

2008年2月14日木曜日

日本の百年4 明治の栄光

橋川文三編著 ちくま学芸文庫 
本体1500円 2007年11月発行

気軽に読める、文庫版の日本の百年。日露戦争から、明治天皇の死去までをあつかった第四巻です。この巻のほぼ半分を日露戦争が占めています。

第一巻の明治維新から読み続けてきて、この巻の前半の日露戦争が一つのクライマックスとなるように編集されています。旅順戦・奉天会戦・日本海海戦などの有名なエピソードに加えて、庶民の残したいろいろな記録からも、この当時の日本人のある種高揚した様子が伝わってきます。

このシリーズは、述べるべきことをすべて述べる教科書のようなスタイルではなくて、エピソードを選んで記述するやり方を取っていますが、日露戦争勝利後は明治国家の秋と題されて、鉄道国有化、韓国の保護国化、中国革命、「地方改良運動」、大逆事件などが取り上げられています。

地方改良運動は、本来なら社会政策と呼ばれるべきものが、社会という言葉がはばかられた時代であったがゆえに、こう称されたものだそうです。こういう風潮は、社会省でなくて厚生労働省などという呼びにくい名称をつける現在だけのことではないのですね。

内務省の中にも、社会政策を必要と考える官僚が現れてきた反面、政府は大逆事件をフレームアップして、社会主義が広まることを押さえようとしていたのでした、という流れ。

ただ、「私はこれまでの大逆事件を取り扱った諸論説が、あまりにもデッチあげと無辜の罪を強調するのに止まっているのに、あきたらず思っていたのです。それは当時の私たちがそういう厳罰を受ける覚悟で言動していたことを思うからです。」と、当時から反権力的な生き方を貫いてきた方の回想があるのに、少しびっくりしました。ロシアでのアレクサンドル2世暗殺などを見て、当時のアナーキスト達は行動する覚悟をもっていたとおっしゃっているのですね。

2008年2月13日水曜日

日本占領下のマラヤ

ポール・H・クラトスカ著 行人社 
本体3000円 2005年8月発行

「巷間いわれていることは事実に相違していることが多い。たとえば、英国が植民地を放棄したのはこの戦争に起因しているとか、日本はマレー半島の豊富な天然資源を獲得するためにマラヤを制圧したとか、日本は暴政を敷いて恐怖政治を行ったとか、華人は真っ向から日本を敵対視したのに対して、マレー人は協力的であり、インド人は日本がインドの独立を助けるという約束で説き伏せられていた、などである。このような見方は通説となっているが、どれも良くて部分的に正しいだけで、一般的には不正確な点が多々ある」

はじめにという部分にはこのように書かれていますが、これが本書の簡潔な説明になっています。400ページにわたって、上記の根拠となるようなエピソードを淡々とつづられています。戦前のマレーの状況から始まって、シンガポール陥落までの戦闘、占領期の統治・経済など、そして日本敗戦後の処理などまで、一読して勉強になったという感じです。参考文献リストもかなり詳細です。

著者がアメリカ人だからかも知れませんが、シンガポール占領後の華人の投獄・処刑を含めて、ほんとに淡々と語られているのです。なので、中国での日本軍占領地に関するものを読む時のような、目を背けたくなるような描写はありませんでした。

しかし、マラヤの産品を充分に吸収して錫やゴム産業を遊休化させず、充分な消費物資や食料をマラヤに供給することに、日本は失敗しています。日本の敗戦によるイギリス軍の帰還が熱狂的に迎えられたという記述は、日本の占領政策の不成功を雄弁に物語っています。

内容とは関係ないのですが、 装丁がみすず書房の本にそっくり。購入して自宅で読み始めるまで、みすず書房の本かと思っていました。ただ、この種の内容のこのボリュームの本としては、3000円という定価はとても安いと思います。行人社さんの本を買うのは初めてですが、かなりがんばっている値付けのような。

2008年2月12日火曜日

Mac OS X 10.5.2

レパードをMac OS X 10.5.2にするアップデータが公開されたので、早速入れてみました。

10.5.2ではシステム環境設定の中のディスプレイとスクリーンセーバーの項目から、メニューバーを半透明にしない選択が可能になっています。これを選んでみると図の上のようにメタリックなメニューバーになりました。

これまで暫定的につかっていたOpaqueMenuBarは図の下のように真っ白なメニューバーでした。この図だと並べても違いが分かりにくいかもなのですが、印象はかなり違います。真っ白なメニューバーもVintage Macのようで悪くはないので、どっちを使うか悩むところです。

また、アップデートすると、環境光の変化でディスプレイの輝度が変化するのもデフォルトのオンに戻ってました。こちらは、またオフにしておきました。

そして、もう一つ大きな変化は、この図の左端にあるようなタイムマシンのアイコンがメニューバーに加わったことです。10.5.2のアップデート後にTimeCapsuleが発売されると噂されていましたが、これで準備完了ですね。TimeCapsuleの発売が待ち遠しいところです。

2008年2月11日月曜日

枢密院議長の日記

佐野眞一著 講談社現代新書 
本体950円 2007年10月発行

枢密院議長倉富勇三郎の名前は、これまでにも台湾銀行救済の緊急勅令の否決やロンドン海軍軍縮条約に関連して目にしたことがありました。ただ、これらの事件についての本を読む時は、どうしても私は民政党の味方になって読んでしまうので、ひどいやつだなという印象を持っていたのです。

しかし、この本の口絵には倉富勇三郎の写真が載せられています。これが、ほんとに人の好い田舎のおっさんという風貌で、とても官界で出世しそうにない人に見えます。実際には宮中席次第4位まで出世したのですから、人は見かけによらないもの。

また口絵には、日記の関東大震災の日のページが載せられています。明らかに読みにくそうな字、というか私には読めません。著者は枢密会という、この日記を読むグループを作って読み進んだのだそうです。たしかに、これの解読作業は、分からない部分を数人で知恵を絞らないと続かないでしょうね。

日記は、大正8年から昭和19年まで大学ノート297冊に記録されていて、しかも読みにくいときていますから、全文を通して読むのは困難なのだそうです。なので、著者はいくつかのハイライトを選んで読ませてくれます。

まずは、宮中某重大事件。私はこの事件を、皇太子裕仁の婚約者久邇宮良子女王に色覚異常の血統が存在する可能性を理由に、山県有朋が婚約自体を迫った事件、またそれに付随して長閥・薩閥のからんだ争いになった事件だと思っていました。

しかし、この日記によると、上記のことよりも、久邇宮家が婚約破棄を迫る山県有朋などを攻撃するために壮士グループに怪文書を出させたこと、またそれを種にその壮士から強請られ、秘密裏に金銭でそれを解決したことの方が、問題とされています。

当時、日記の主が宮内官僚だったのでこんな風に感じただけなのでしょうか。それとも、他の政治家元老たちもこの強請事件の方を重大視していたんでしょうか、ちと気になります。

また、5・15事件に関するエピソードですが、当時枢密院議長だった倉富さんは事件の5日後に西園寺公望に面会して、内大臣だとして閑院宮載仁親王と都甲平八郎を迎えるように力説したのだそうです。閑院宮はお飾りの参謀総長、東郷平八郎は政治センスがないことが有名でした。

なので西園寺公望は丁重にかわしたそうですが、こういった発想するあたり、倉富さんは政治家ではなかったんですね。また、こういった政治センスのない人が枢密院議長になってしまう日本という国は、全くなんなんだろうとも思えてしまいます。

ロンドン海軍軍縮条約の審議については、議長辞職後に長い手記を認めていたとのことです。倉富議長は軍縮条約案に反対なのですが、審議の筋論・法律論をもっぱら主張しています。それに対して、同じ反対論でも伊東巳代治などは政治的に反対しているので、審議の過程で反対派が不利になってくると、一転して全会一致で可決されるように根回しを始める訳です。手記の中ではそうした伊東の行動を倉富さんは批判しています。

関静夫著のロンドン海軍軍縮条約成立史(ミネルヴァ書房)を昨年読みましたが、それと対比して、浜口首相を焦らせた倉富さんの考え方が分かって面白かったと思います。

枢密院は一応、憲法の番人と呼ばれていました。そう言う意味では、倉富さんみたいな、筋論・法律論を大切にする人が枢密顧問官を務めたのは正しいのだろうと思います。でも、政治感覚がない人が議長になるのはやっぱり変ですよね。

2008年2月10日日曜日

しもやけ

私の場合にはあまり大した影響を与えないしもやけですが、かなりひどくなる人もいます。足だとくるぶし以下全部、手も手指に加えて手背・手掌全体が腫脹して、手が使いにくくなったり、靴が履きにくくなったりします。

また、腫脹した部分に傷がつくと治りにくく、びらんから潰瘍を形成して、治療に難渋することもあります。種々手を尽くしても、暖かくならないと治らないわけです。また、暖かくなっても元通りにならずに、手足に色素沈着を残す人もいますね。

こんな風にいろいろと問題のあるしもやけですが、皮膚科の医師は別として、その他の科の医師の間での関心はかなり低い方の疾患だと思われます。しもやけという名前を聞いたことがない人はいないと思いますが、医学生用の教科書に写真の図版が載せられていることはまずないでしょう。

ですから、しもやけになった経験のない医師は、患者さんの手足を見ても見当がつかないのだろうと思います。じっさい、内科や整形外科にかかって、蜂窩織炎や閉塞性動脈硬化症など別の疾患の診断を受けてしまった患者さんも少なくありません。

しもやけの治療ですが、「今日の治療指針」などの本には、ビタミンE軟膏(ユベラ軟膏)などがすすめられています。ただ、実際にこれが効くかというとかなり疑問です。漢方では、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(ATOK医学辞書のおかげで、これも一発変換)などをつかうようですが、服用した患者さんたちのお話では著効ということはなさそうです。また、私自身は中国人の医師から勧められて烏骨鶏の血液を粉末にしたカプセルを一シーズン服用したことがありますが、自覚的には効果なかったですね。

私が処方してみて唯一手応えのあったのがニフェジピン(nifedipine)です。ニフェジピンはカルシウム拮抗薬と呼ばれ、血管拡張作用のある高血圧の治療薬(商品名アダラートL、アダラートCR)です。潰瘍化して困り果てた症例に、血圧も高かったので、文献をもとにニフェジピンを開始したところ、腫脹が軽減した経験があります。

しもやけは皮膚の最小動静脈の寒さによる収縮拡張機能の異常が原因のようですから、ニフェジピンが効くのかもしれません。また、ACE阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬なども、腎保護作用と同じような機序で効いたりするのではとも妄想してしまいます。

ニフェジピンも10年ほど前にはanecdotalな治療法だったのですが、その後controlled study実施されています。あまりもうけにはならない分野だろうし、また季節性やその年の寒さなどにも影響されるので治験を組むのが難しかったりの問題はあるでしょうが、もっと有効な治療法開発に、製薬企業の努力を期待したいものですね。

2008年2月9日土曜日

今年の冬は寒い

一月から、最高気温が10度以下の日が続いています。北の方の人からみると大したことない気温でしょうが、東京在住者にとっては今年はかなり寒い方の冬です。その証拠に、こんなものが。


私の右第3指のPIP関節周囲ですが、しもやけでしっかり発赤・腫脹しています。足趾のしもやけは毎冬のことなのですが、手指がしもやけで腫脹するまでになったのは、ここ数シーズン記憶にありません。医学生だった頃以来かもです。それだけ今年の冬は厳しい感じ。

私の場合は、手指をつかうのに支障があるわけではありません。でも、なにかに接触するとごくごく軽い痛みを感じるのと、暖まるとなんとなくむずむず痒くなり、うっとうしい存在です。

2008年2月7日木曜日

谷保駅の寒桜


谷保駅の川崎行きのホームの裏側の敷地に寒桜が3本あります。今朝、出勤時に通りかかった時にはつぼみばかりでしたが、昼過ぎに見ると一番東側の一本が咲き始めていました。

きょうは北風は冷たかったのですが、久しぶりに陽射しがあったので咲き始めたのでしょう。これからゆっくりと咲く花が増えていき、ソメイヨシノなどに比較して咲いている期間が長いので、4月まで毎日楽しませてくれます。

国立駅にも早くから咲き出す寒桜があったのですが、中央線の高架化工事で残念ながら伐られてしまったそうです。谷保駅のサクラは大切にして欲しいものです。

ただ、私にとってはこのサクラが咲き始めると本格的にスギ花粉が飛び始める時節の到来なので、ちょっと悩ましくもあります。

2008年2月6日水曜日

疾病と世界史 関連して

疾病と世界史の訳者の佐々木昭夫さんが翻訳した本に「ヨーロッパ帝国主義の謎 エコロジーからみた10〜20世紀」があります。著者はアルフレッド・W・クロスビーさんです。

この本の訳者のあとがきを読むと、「訳者が以前翻訳したマクニールの疾病と世界史の注を見ると、『コロンブスの交換』を参照すべきことをしばしば言い、また20世紀初めのスペイン風邪については、当時まだ刊行前だったクロスビーの”Epidemic and Peace, 1918”(1976)の草稿を読ませてもらったことを感謝している。本書巻頭の『はじめに』によれば、本書でもマクニールが最初の草稿から熱心に読んだという」という記載があります。

”Epidemic and Peace, 1918”は、「史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック」という邦題で、2004年1月にみすず書房から出版されたので読みました。ただ、”Columbian Exchange”(1972)の方は邦訳がありません。また、やはりクロスビーの著書で”Germs, Seeds & Animals, Studies in Ecological History”(1994)というのがありますが、タイトルからして面白そうですし、こちらも多くの本で言及されています。

疾病と世界史も古い本ですが満足させてくれたので、”Columbian Exchange”と”Germs, Seeds & Animals, Studies in Ecological History”も読んでみたい気がします。ただ、日本語でなく英語の本を読むしかないのがちょっと。

英語で書かれているものでも、医学雑誌や医学書、そして洋ゲーのマニュアルなんかは、 テクニカル・ライティングというのでしょうか、外国人にも理解しやすいように書かれています。でも、一般書は私の英語力だと読むのに時間がかかるのが難点。今後、日本語訳が出ることはないだろうし、どうしたもんでしょう。

2008年2月4日月曜日

疾病と世界史 下

ウィリアム・H・マクニール著  中公文庫  
本体1143円  2007年12月発行

下巻では、ペストの大流行、旧大陸から持ち込まれた感染症によるアメリカ大陸の住民の人口の激減とインカ・アステカ帝国の滅亡などが主なテーマです。ただし、ペストに関してはヨーロッパへの伝播の事実のみが取り上げられているわけではありません。モンゴル帝国勃興による東西交通の活発化がペストの広範な伝播の原因と考えられるので、中国や中央アジアでのペストも取り上げられているのです。

ペストにより「草原地帯を人口動態上の大災厄が襲った」ことから、「遊牧民が大草原から外へ押し出して農耕の行われている土地に侵入するという、過去何千年もの間続いた形に代わって、遅くとも1550年には、農耕民の先駆者が西部草原地帯に入り込み始めていたのだ。そして彼らが進出していった土地は、大部分無人となってしまった大海原の如き草原だった」というのが、マクニールの説です。現在のウクライナや東ヨーロッパが農耕民の社会になっているのは、ペストの流行が原因だというわけですね。

また、歴史人口学では近世以前の都市において自然出生数を死亡数が上回るとする都市墓場説が定説となっていますが、18世紀以降の公衆衛生と医療の改善について、マクニールは都市の人口が田舎からの流入なしで維持・増加できるようになったと評価しています。これだけなら、至極当たり前の話なのですが、自ら人口を維持できるようになった都市に新たにやってくる人たちが、都市のスラム化の原因だとも、マクニールは記述しています。あまり、耳にしたことのないアイデアですね。

感染症は変化してゆくものだという指摘も本書の特長です。 ある感染症がヒトの社会の中に定着するには、ヒトと共存する・罹患したヒトを必ずしも殺さないようにする変化・進化が必要だというわけです。野生動物・家畜などからヒトに感染した病原体が当初は高い致死率を示しても、定着するようになるにつれ麻疹やおたふくかぜのような「小児病」になってゆくこと、つまり同じ感染症でも昔々の私たちのご先祖様たちが罹患していた頃と現在とでは必ずしも同じ症状・経過・予後を示すとは限らないというわけです。これは重要な考え方ですよね。

さらに、本書には「或る正体不明の寄生生物が、古くから馴れ親しんできた生態系ニッチェを離れ、この地上でこれほど目立った存在になってしまった密集する人類を襲い、目新しく、時には破滅的でもある高致死性の病気に見舞わせるということは、充分に可能性がある。最近インドと東南アジアに発生するコレラは、セレベス原産の新しい細菌によるが、これは古典的なコレラ菌をベンガル地方とその周辺のすみかから追い払って、それに取って替わったのだった」という記載があります。

20世紀末以来、新興再興感染症という考え方が広まりましたが、本書では新興感染症、その中には消えて言ってしまうものもあることも指摘されています。SIRSはその好例です。

上下巻あわせての感想ですが、30年以上前に出版された本なのに刺激的なアイデアがたくさんつまっていて、後に続く著作に対して影響の大きかった理由がよく分かりました。

2008年2月3日日曜日


今日は暗いうちからずっと雪が降り続いています。大きめの雪で遠くがかすんで見えています。昼頃に少し明るくなって、道路の雪は溶けてきていますが、まだ降り続いていて屋根などには融けずにつもっています。

こんな程度を大雪というと、雪国の人には呆れられそうですが、ほんとに日曜日で良かったという感じです。明日の朝は道路がつるつるに凍ってそうで心配。

2008年2月2日土曜日

疾病と世界史 上

ウィリアム・H・マクニール著  中公文庫
本体1143円  2007年12月発行

ヨーロッパ覇権以前(ジャネット・L.アブー=ルゴド、岩波書店)、リオリエント(アンドレ・グンダー・フランク、藤原書店)などなど、多数の歴史書の中で引用されたり、参考図書として挙げられている「疾病と世界史」が復刊されました。原著は1975年刊行で、日本語版も1985年に新潮社から発行されていたとのことですが、これまで入手の機会がなかったので、早速購入しました。

もともと一冊本だったのを上下2巻に分け、しかも文庫とは思えない各1143円というかなりのお値段がつけられています。予想販売数がかなり少ないのかも知れませんが、名著復刊とはいえ中央公論新社もあくどい値段の付け方だなぁという感がなくはありません。まあ、きちんと注をつけたまま文庫化されている点に免じて、赦してあげましょう。

アステカ・インカ帝国の滅亡に旧大陸起源の感染症が大きく影響したと考えられることが本書下巻で論じられていますが、銃・病原菌・鉄(ジャレド・ダイアモンド、草思社)や1491(チャールズ・C・マン、NHK出版)などはこのアイデアから生まれた著作のような気がします。なので、本書の内容の多くは、私がこれまでに読んだことのある、本書を引用している本に述べ尽くされていて、本書を手にとっても新たな発見はないのではないかと思っていました。しかし、実際に読み始めてみて、その予想が間違いだったことに気付きました。

例えば、「人類がアフリカに誕生したのだとすると、ヒト科の霊長類がゆっくりと進化して人類の集団にまで達するにはかなりの時間がかかったわけだから、当然、周囲の生物の方でも、人類の活動によってもたらされる危険に対処すべく、適応を遂げる余裕が充分にあったはずである。逆の見方をすれば、アフリカでヒトに寄生する生物が非常に多様性に富んでいるという事実は、アフリカが人類の主な揺籃の地だったことを示しているということになる」や、「紀元前四万年から同一万年の間の、人類の異常なほどの発展には、自然環境への文化的適応がまず決定的だったことは否定し得ないが、実はもう一つ無視できない要因がある。われわれの先祖達が熱帯の自然環境をあとにした時、彼らはそれまでの人類、また今日でも熱帯に住む人類が曝されている寄生生物や病原体から逃れることが出来たのである。そこで健康と活力が改善され、人口の増加はこれまでに例のない規模で繰り広げられることになった」という記載があります。これだけなら、そうだろうなと思う程度です。

しかし、そこから「温帯地方や同じ熱帯でもアメリカ大陸その他、支配的生態系がアフリカほど複雑精緻ではなく、したがってそれを単純化しようとする人類の行動に対する抵抗力が強くない地方に比べて、アフリカが文明の進歩から取り残されがちな最大の理由なのである」と導き出されてみると、立証も反証もできないとは思うけれど、とても魅力的です。

また、「文明の歴史のほんの黎明期にあって、成功した略奪者とは征服者になった連中のことだった。つまり、収穫物の全部ではなく一部だけを奪うという形で農耕民を収奪する手法を編み出した者たちである … 農耕民は自分たちの生存に必要とする以上の穀物その他の作物を生産することで、こうした形の略奪に耐えるようになる」という記載は、まあ言われてみればあたりまえみたいです。

しかし、「この余剰生産物は、ヒトによるマクロ寄生に抵抗するための抗体と見なすことができる。成功した政治権力とは、租税、年貢を納める者に、外敵の侵入と破滅的な略奪に対する免疫性を与えることのできる存在である。それは、軽度の感染がその宿主に免疫による抵抗力をつけさせ、死をもたらす悪性の病気の侵入から守ってくれるのと等しい」と続けられているのを読むと、政府とendemic(常在する感染症)との巧みな比喩に関心してしまいます。