2010年9月4日土曜日

生物多様性<喪失>の真実



ジョン・H・ヴァンダーミーア/イヴェット・ペルフェクト著
みすず書房 2010年4月発行 本体2800円
熱帯雨林の減少は今でも続いている。保護策を積極的にとる模範的な国と見なされ、エコツーリズムの目的地にもなっているコスタリカにおいても、やはり熱帯雨林が減少し続けていること。また、ところどころに島状に残された熱帯雨林をフェンスとガードマンに守られた保護林として残すだけでは、生物多様性が失われることの歯止めにはなり得ないことが本書では記されています。
熱帯雨林の破壊の原因として、樹木の伐採、焼き畑、人口増加(ほんとは作られた社会的移動が主因)と小農による農地化、プランテーション化などが目につきますが、これらを個々に押しとどめようとしても、それは無理。タイトルにある「真実」は、熱帯雨林の破壊を来す政治経済的なシステムが現に存在しているのでそのシステム自体の変革を求めないと根本的な解決にはつながらないということです。そういった著者たちの主張を至極当然なものだと私も感じました。著者たちの主張に抵抗がないのは、著者たちの発想がシステム論・従属論を元にしたもので、私も基本的にはそれが好きだからだと思いますが。
政治経済的なシステムが生物多様性喪失の真実だとすると、熱帯雨林の問題の改善のためには、先進工業国(中核)に住む人たちの理解とシステム改変への積極的な参加が不可欠です。本書の冒頭で触れられていますが、朝食のシリアルにスライスしたバナナを添えて食べる行為は、熱帯雨林をスライスして食べているようなもの、それは確かです。でも、先進工業国に住む人、たとえば自分や自分の周囲の人たちをみまわして、バナナのスライス=熱帯雨林の破壊を自覚して行動できる人っているのかどうか。この点に関しては悲観的になってしまいます。政治経済的なシステムによる変化、例えば熱帯雨林の破壊のように目に見えないところで起きている変化が、自分たちにとって不利益になるのだいうことを知らせて、よくよくわかってもらわないとダメでしょうね。
もちろん、本書には熱帯雨林の性格、熱帯の土壌での農業の問題点、著者たちのフィールドであるコスタリカ・ニカラグアの様子が記され、特にサンディニスタ政権に対する評価は興味深く読めました。また、保護林を島状に設定するだけではなく、より広い面積を占めるその周囲の農地・プランテーションで行われる農業を、化学薬品に依存した近代的農業ではなく、生物多様性を保ちやすい伝統的な農法で行うようにするという当面実行しやすい対策が提言されていました。

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