2010年8月30日月曜日

戦艦武蔵ノート



吉村昭著 岩波現代文庫/文芸172
2010年8月発行 本体1040円
私は医学生になって以来25年以上、小説をほとんど全く読んでいません。吉村さんの作品も、たまたま毎月読んでいた雑誌に「破獄」が連載されることになり読んだことがあるだけで、「戦艦武蔵」は手に取ったこともありませんでした。でも、面白かった。
本書は小説ではありません。著者の戦争および戦後の戦争への評価に対する思いと、戦艦武蔵執筆につながる取材の過程を明かした作品です。武蔵竣工後に乗り組んだ海軍の将兵、武蔵での沈没を経験した人たちだけではなく、建造の計画期から実際の長崎での建造にたずさわった人たち、その周辺の人たちなど、とても多くの人にインタビューを行っています。そして、そのインタビューに対する反応や、またそこから明かされる数々のエピソード、そのどちらもがとても興味深く読めました。
冒頭に「二十年前に不意に集結した八年間の戦いの日々」とあるので、もともとは1960年代半ばに書かれたもののようです。本書は、書かれた時代を感じさせてくれもします。ひとつには、進歩的文化人をはじめとする世間の戦争観に対する不同意。著者は昭という名前で分かるように昭和のはじまりの1927年生まれで、戦争責任からの回避・自己保身など考える必要のない世代で、それが進歩的文化人に対する批判的な見方をみちびき、また戦艦武蔵の執筆につながったのでしょう。もう一つは、こういった著者の戦争観に対して同意してくれたのは同年輩の男性だけで、戦争への評価に男女間の違いがはっきりあると露骨に記していること。男はリスクを負っても未来に賭けるのに対し、女は現在の生活しか重視しないなんてことは、今ならどうどうとは書きにくい感じがしてしまいます。

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