岡本隆司・吉澤誠一郎編
東京大学出版会
2012年8月31日初版
憶い出してみると、先日読んだ中国経済史入門をはじめ、海域アジア史研究入門、日本経済史研究入門など、~入門というタイトルのつけられた本をかなり多数読んでいることに気付きます。ほかにも、古典籍研究ガイダンス、日本植民地研究の現状と課題のように「入門」という言葉がつけられていない入門書もあるので、これらも含めると年に数冊は入門書を読んでいる勘定になります。きっと多い方ですよね。では、こんなふうに私が入門書を読む理由はなにかというと、それらの本が対象としている学問分野について、主なテーマや現状・研究史などについて学びたいからです。本来ならそういった知識は大学で学んで得るべきものなのでしょうが、私は学生ではなく、またこれから学生になる予定もないので、とりあえず本で代用しています。
多くの入門書は、一般人ではなく少なくとも学生、どちらかというと院生以上を対象にしているようで、その分野の主要テーマごとに研究史と現状をまとめ、テーマの選択についてアドバイスし、研究に必要な機器、情報の探し方・在処などを紹介する内容になっています。本書もその例に漏れないわけですが、それに加えて本書には研究者の卵に研究の心構えを説くという色彩が、類書と比較してかなりつよく出ていました。もちろん研究史の紹介もされているのですが、紹介することが目的というよりも、心構えを語る材料として提示されているように感じたのです。おそらく、各章の執筆者たちには、若手の研究者や自分の指導した院生に対する不満・危機感がかなりあり、そういった若手の腐った状況を改善したいがために本書を編んだということなのだと思います。もちろん具体的な個人名は書かれていませんが、ある特定の顔を思い浮かべながら「近頃の若いものは...」とつぶやきながら書いたのではなかろうかといった記載も見受けられました。
各学問分野で~入門といった学生・院生を対象にしたマニュアル的入門書が続々出版されつつあるという事実は、本書ほどはっきり述べてはいなくとも、「近頃の若いものは...」現象が高等教育・研究機関に蔓延していることの現れなのだと感じます。きっとその背景には、国立大学法人化、研究費の獲得の仕組みの変化、少子高齢化による学生数の減少などなどがあるのでしょう。本書に書かれている主張は至極当然なものばかりですから、本書を読んだ若手が襟を正し、執筆者たちの求めるような真っ当な研究者として一本立ちしていってくれることを私も期待します。しかし、たとえそういった執筆者たちの意図が実現しなかったとしても、数十年後には本書が出版されたことそれ自体が、21世紀初頭の日本の研究者の世界の大きな変化とそれに対する研究者たちの反応をビビッドに物語る史料として珍重されるようになることでしょう。
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