2010年5月9日日曜日

トレイシー




中田整一著 講談社
2010年4月発行 本体1800円

日本兵捕虜秘密尋問所というサブタイトルがついています。なにも拷問などが行われたから「秘密」というわけではありません。本書を読めば分かるように アメリカの日本兵捕虜に対する待遇は、日本の捕虜収容所のそれに比較して数等上でした。ただ、普通の収容所での捕虜に対する尋問と違って、このトレイシーにあった施設では盗聴も行われていて、それがジュネーブ条約に違反するので、近年まで秘密にされていたということです。

捕虜秘密尋問所は、東海岸にもドイツ兵向けのものがあったそうです。そして、この種の施設を設けること、尋問のテクニック、盗聴などの技術は、もともとイギリスが対独戦で使用していたものがアメリカに供与されたものだそうで、イギリスの手練手管には感心するばかりです。それに対して、生きて虜囚の辱めをうけるなということのみ強調し、実際に捕虜になった際の対処法を教育しなかった日本軍の非合理性が浮き彫りにされ、情けないかんじがしました。緒戦の日本兵捕虜の士気の高さが強調される一方、サイパン玉砕頃から日本兵の士気の低下がアメリカ側にもはっきりわかったそうです。その後の戦いでも死ぬまで戦ったのは、捕虜となることが許されず、死ぬほかに道がなかったということなのでしょうね。

なので、たまたま捕虜となる機会があれば、鬼畜と教えられてきたアメリカ人から比較的寛大に扱われることで、いろいろと尋ねに応じてしゃべるようになったことはやむを得ないと思われます。それにしても、皇居の中の建物の配置や、日米開戦後に開設された飛行機やエンジン工場の様子などまでアメリカ側が知っていたとは本当に驚きです。

とても面白い本でした。このトレイシーを経験した元日本兵捕虜で近年まで生存している人が複数いて、90歳台の彼らのインタビューまで試みていることには脱帽します。

で、130ページに操縦士がゼロ戦について証言していますが、携行弾数が20ミリ機関砲一基につき200~300発、7.7ミリ機銃一基につき70発と書かれています。これは逆ですよね。20ミリ機関砲は大威力だけれども携行弾数が少ないのが欠点だったはずですから。故意に捕虜が嘘を証言したのか、アメリカ人尋問者のミスか、この本の著者の間違えか、どれでしょう。

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