大東英祐他著 有斐閣
2007年9月発行 本体3600円
本書では、企業の企業・活動・発展には、競争したり取引したり協調する他企業や、その企業に対する売り手・買い手、その分野の研究者やとりまく社会の状況などが関連していますが、それをビジネス・システムと呼ぼうと提起されています。創造・発展・起業者活動というサブタイトルが付いていますが、実際にビジネス・システムの創造・発展・起業者活動の様子を示す事例が6つ納められています。
序章は、大阪への鮮魚輸送に手こぎではなく発動機船や冷蔵船を使い始めて、瀬戸内海東部から朝鮮半島、そして底引き網漁自営にまで活動の場を拡げた林兼商店の事例。林兼商店についてはもっと本を探して読みたい気分になりました。第1章は、ボストンに族生した中国貿易のカントリートレーダーが、アメリカ国内の鉄道投資などに資金を移動させた様子。第2章は、明治期の後発損害保険会社3例の企業設立時の発起人・出資者の関係。第3章は、東京と大阪の明治初期の為替・手形決済。第4章は、古河電工をもつ古河傘下だったはずの日本電線が独自の動きを始め、他企業の協力を得たカルテルでなんとか統制した事例。本書を読むことにした理由は先日読んだ「ものづくりの寓話」に紹介されていたからで、第5章と第6章は「ものづくりの寓話」の著者が書いています。第5章は、一時は世界一の繊維機械メーカーであったプラット社が経営不振陥る過程。第6章は「ものづくりの寓話」におさめられていたのとそっくりで、フォード・システムに対する世間一般の誤解を解くような説明がなされています。各事例には興味深いエピソードがたくさん紹介されていて、面白く読めました。
序章と各章のはじめの部分には、なぜ「ビジネス・システム」なのかが書かれていますが、どれも非常に読みにくい文章ばかり。各事例の焦点を素人である私にも分かるように記述してくれた著者たちですが、なぜ「ビジネス・システム」などという概念を持ち出したかったのかという点に関しては、分かりやすく記述することができていません。今さら改めて「ビジネス・システム」なんて持ち出さなくても、企業の歴史を描く論考では、企業とそれを取り巻く社会状況について考察するのが当たり前のことになっています。その当たり前のことにわざわざ難しい理由付けをしようとするからおかしな事態になってしまったのだろうと感じました。その点を除けば、面白い本で一読の価値ありです。ただし3600円の価値があるかどうかは疑問。新書版で1000円くらいで売られるべき本じゃないのかな。
間違いを一カ所発見しました。アメリカのセントラル鉄道についての56ページの説明、「1マイルあたり16ポンドのレール」は変です。きっと1ヤードあたり16ポンドのレールのことでしょうね。
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