高橋泰隆著 日本経済評論社
1988年5月発行 本体2500円
以前読んだことのある「ものづくりの寓話」では、日本での互換性生産の歴史を説明する中で戦時中の飛行機生産が取りあげられ、この中島飛行機の研究が引用されていました。そんな縁から本書を読むことにしました。私の読んだのは1999年2月の第4刷ですが、新品がネット通販で入手できました。
選書版302ページの本です。序章では、中島飛行機が1930年代から戦時に急成長できた要因、また新興財閥・新興コンツェルンとして捉えられるかどうかといった、著者の課題と方法を述べています。第1章中島飛行機株式会社の成立では、創業者である中島知久平の略歴、中島飛行機の発展と成長しても同族経営を続けた様子が扱われています。第2章戦時航空機産業と中島飛行機では、1930年代から戦時の機体・エンジンメーカーの比較。第3章中島飛行機の管理では、流れ作業が志向された様子、戦中は徴用工の割合が増えて欠勤・作業の質・労務管理などに多くの問題をもたらしたことなどが説明されています。第4章戦時下の工場では中島飛行機の各工場の所在地・生産していたモノ・資材不足から製品の数と質が確保できなかったこと・空襲と疎開の様子などが扱われていました。
軍需会社であったことから秘密扱いされたことと敗戦時の資料の処分とから、「中島飛行機株式会社の経営資料はきわめて少ない」と著者は述べています。たしかにそうなんだろうとは思いますが、それにしても、本書は既存の社史や出版物の内容を引用して切り貼りしただけという印象です。もちろん史料がなければ歴史は描けませんが、そういった史料に基づく著者自身の主張がなくてはダメ。著者独自の主張が「『零戦』エンジンは中島製であるし、驚くべきことに機体総数の六十%以上は中島飛行機の工場で組み立てられていたのである。したがって一般に認識されているような『三菱の零戦』に異議を唱えたいのである」といった程度ではねえ。こんなの常識でしょう。
また、中島飛行機の主要な製品である飛行機に対する扱いがお粗末。陸海軍で要求が異なったでしょうし、単発機双発機などで大きさや生産の様子が異なったでしょうし、そういったあたりが全く触れられてません。またそもそも機種名の扱いがめちゃくちゃ。例えば、陸軍の疾風。疾風単戦、四式戦闘機、フランク、キー八四など呼び方がばらばらで全く統一されていないし、八四式戦闘機などという他では聞かない著者自身の造語(?)まで登場するし。フランクは日本側の命名ではないのだからフランクなんて書かないでFrankとすべきでしょう。
中島飛行機の研究というタイトルの本書ですが、読み終えてみて、とても「研究」と言う名前には値しないと感じました。本書の出版が準備された頃ならば中島飛行機で管理や生産や設計などなどに従事したことのある人がまだまだご存命だったと思うのです。そういった人たちへのインタビューを仕様としなかったのはなぜなんだろう。例えば、エンジンなどの部品の不足などから要求された数の生産ができないといった記述がありますが、そういう時に組み立て工場の工員は何していたんだろうとか、給与が歩合制みたいに書いてあるので、給与をもらえなくなったのかしらなどなど、しゃべってもらいたいことはたくさん思い浮かびます。非常に残念な本ですね。
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