龍應台著
白水社
2012年6月20日印刷 2012年7月5日発行
台湾の作家が、国民党軍の憲兵の部隊長として転戦したお父さん、その妻として台湾へ避難する船に乗ったお母さんの「漂泊人生」を描くところから始まります。お母さんは虎の子の金200gを元手に商売を始め繁盛したのだそうです。そのまま父母のことを中心に展開するのかなと思って読むとそうではなく、著者の父母のようにこの時期に漂泊を余儀なくされた人々について、遺された史料だけでなく、聞き取りもまじえて紹介してくれています。小説ではなく、オーラルヒストリーを用いた史書というわけでもなく、ドキュメンタリーでもなく、それでも興味深く読める本ですした。
漂泊を余儀なくされたといっても本当にいろいろなケースがあり、フランス領だったベトナム経由で台湾に逃れた国民党の兵士や、蒋介石も共産党も良しとせず香港に逃げた人、日本治下の台湾から満州国に渡った人、日本軍に参加させられ死亡したり戦犯になった台湾人。また、国共内戦の様子や、台湾接収に来た国民党軍のみすぼらしさにも理由のあったことなど。どのケースも、金を200gも持ち出せた著者のお母さんよりはずっと、戦争の冷酷さと悲惨さをおぼえさせるものばかり。 著者は、
今回衡山を訪問するまで私は、1949年とはなんて凄惨で、特殊な一年だったんだろうと考えていた。ところがだ、県誌を開き、夜鍋して読めば、どの頁も例外なく悲痛な叫び声をあげている。なるほどそういうことか。1949年とはなんて普通の一年だったんだろう!
と書いていますが、たしかにそんな印象を与えてくれる本です。また、中華民国についてちっとも知ってはいないということを再確認させてくれた本でもあります。例えば、台湾に逃れた時点では台湾もいずれは共産党の手に落ちると思われていたのかどうかとか。また、本書の中には反共救国軍というのが紹介されていて、例えば朝鮮戦争の時代に蒋介石も共産党も良しとせず香港に逃げてきた若者をCIAがサイパン島で訓練し中国本土の彼らの故郷に空から潜入させたりもしたのだそうです。1949年からこの反共救国軍の時期までにはアメリカの意向が大きく変化したように思われ、この頃の中華民国について書いた本をさらに読んでみたくなりました。
よそから来た人が子供を持ったとき、その土地の文字を、たとえば香港生まれなら港という字を名前につける傾向が中国の人にはあるそうです。應台さんは外からやってきた父母の台湾で生まれた子供ということですね。で、読みすすむうちに、著者が女性であることに気づいて、すこしびっくり。中国の人の名前でも女性らしい名前とみてすぐにわかることもありますが、應台さんという名前は私にはそうではなく、特に、台湾では現行の自体なんでしょうが日本では旧字体である應がすこしいかめしく感じて、男かとおもっていました。
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