2013年1月9日水曜日

新版 匠の時代4


内橋克人著
岩波現代文庫 S220
2011年7月15日 第1刷発行

国鉄のいろいろな職種のできる人たちをとりあげた軽い読み物に仕上がっていますが、ただそれだけ。各人の技能や国鉄の技術が深く掘り下げられているわけではないし、国鉄の抱えていた問題や労組のもたらした問題などへの言及は少なく、また叙述の仕方もリアリティを狙ったスタイルではありません。例えば、著者がその場で実際に聴いたはずのない登場人物の会話が、カギ括弧で囲まれた直接引用の形で書かれているのです。こういうのって、事実を語るというよりもエンターテインメントを重視した、小説にふさわしい作法だと私は感じます。こういった見てきたような嘘を語る手法をつかった作品には、例えば坂の上の雲があります。しかし坂の上の雲なら、読んで明治の日本を学んだ気になってはいけないとは言えても、エンターテインメントとしてはよくできた作品だから売れています。しかし本書は、高度成長期日本の一面を学ぶにも、暇つぶし以上のエンターテインメントとしてもよくできた作品とは言えず、「匠の時代」というタイトルは分不相応かなと感じました。

もともとは夕刊紙の連載コラムだったものが書籍として出版され、その後講談社文庫、そしてこの岩波現代文庫として出版された履歴があると記されていますが、岩波が21世紀のこの時期になぜわざわざ現代文庫として出版したのか、その意図が読めません。時代背景の書き込みが乏しいのは、同時代の読者には不要だったからだと思いますが、当時を知らない読者にはおすすめできない、とうに賞味期限の過ぎた本だと思うんですがね。

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