2008年6月9日月曜日

昭和史の一級史料を読む

保阪正康 広瀬順晧著 平凡社新書418
本体780円 2008年5月発行

例えば、天皇周辺の動きを追うのに必要な、西園寺公と政局、木戸日記、牧野日記などについて、その筆者の立場に違いがあることを留意して読む必要があるなど、前半は有名どころの史料を列挙して、その性質などを説明してくれています。侍従の書いたものを読む際にも、同じ侍従とは言っても天皇が親しく話をした関係の人か、単に役人として見ていた人かを意識すべきとか面白い。

また、戦前と戦後を当たり前のように分けて考えるのではなく、「『昭和ファシズム体制』『軍部独裁体制』という言い方をすると、それは斉藤・岡田内閣あたりからずっと来ていて講和まで続いているのではないかと思います」、「昭和七年から二十七年までの二十年ぐらいは枠組みとして同じ体制があったということですよね」などの記述があります。占領期も一種の軍部独裁ではあるので、史料を読んでの実感なのでしょう。

後半は、満州事変時の朝鮮軍の越境問題、5・15事件時の後継首相選定過程、 近衞上奏文など、史料に則していくつかのトピックが紹介されています。この中では、昭和十九年二月に東條首相兼陸相が参謀総長を兼任しようとした際のエピソードに興味を惹かれました。陸相が参謀総長を兼任することについては、統帥権の独立を定めた憲法に反するのではという疑義が天皇はじめ宮中・陸軍内でもたれました。杉山参謀総長ももちろん反対したのですが、東條はすでに天皇の承諾を得ているとして杉山を騙して納得させたことが史料から読み取れるというのが保阪説なのです。

また、敗戦時の証拠隠滅・焼却についても語られています。証拠を残さないため文書ではなく口頭で、文書を焼くように伝達されたそうです。どうしてああいうことをしたのか疑問に思っていたのですが、ドイツでニュルンベルグ裁判が行われているという情報が伝わっていたからだろうとのことで、ああそうかと感じました。面白い本でした。

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