デニス・フリン著 山川出版社
2010年5月発行 本体1500円
三つの文章と解説が収められた小冊子です。一つめのテーマはグローバル化は1571年に始まったというもの。1571年はマニラが建設された年で、アメリカ大陸から銀が太平洋を越えて輸送され、中国の絹と交換され始めた契機としてとりあげられたものです。私はこの説についてはかなり微妙な印象を受けました。それまでもアメリカ大陸の銀はスペイン経由でアジアに送られていたわけですから、太平洋を経由する貿易が始まったことをそれほど重要視するのもなんだかなと感じるわけです。ただ、著者が触れているように、グローバル化にははっきりとした定義がないわけで、各々の論者が自分なりの定義で論じているわけですから、著者なりの定義に従ったグローバル化の開始を1571年にすることもありだとは思います。
中国に銀が輸出されたのは、ヨーロッパ(と日本)が輸入を希望する絹などの中国産品の代価としてだけではなく、他の世界と比較して中国での金銀比価が銀に有利だったからだとも著者は主張しています。そのため、銀は中国に流入し、金が流出する現象もみられたのだとか。中国の金銀比価が世界の他の地域と等しくなるには、およそ100年かけて数万トンの銀の流入が必要でした。これほど長期間かかったことで、銀を輸出することのできたスペインはヨーロッパで長期の戦争を続けることができたし、日本では徳川幕府の覇権獲得・維持に役立ったとも著者は主張しています。これはある意味、納得できる話です。
中国で銀が高く評価された原因は、明朝が紙幣制度を混乱させてしまい、銀を金融・財政システムの基軸に据えたからでした。このシステムが順調に動くためには、国内での産出の少なかった銀を輸入することが必要でした。この銀の輸入は中国に経済成長をもたらしたにもかかわらず、経済発展を阻害したというのが三つめの文のテーマです。著者の定義では経済成長は総生産高の成長を意味し、経済発展は社会全体の富の量の増加を意味します。総生産高は増加しても、銀輸入の対価として生産物の一部の輸出を余儀なくされます。なので、紙幣制度が維持されていた場合と比較すると、銀による通貨制度は経済発展を阻害したと著者は主張しているのです。これもその意味では正しいのだろうと思います。ただ、銀本位制度が維持され銀の輸入が続いた20世紀まで、中国の経済発展が阻害される悪影響を及ぼしたとする主張に対しては誤りではないのだろうけれども、本筋からはずれた議論だと感じます。経済発展に越えられない天井をもたらしたのは、資源獲得の限界にあったとするThe Great Divergenceのような議論の方が本筋でしょう。
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