籠谷直人・脇村孝平編著 世界思想社
2009年11月発行 本体3900円
中国やインドの世界市場への再参入が現在のグローバル化につながっているが、「再」参入が必要となったのは20世紀後半に世界市場に背を向けていたから。そして、そのように背を向けた原因は19世紀から20世紀前半のヨーロッパに対してアジアが不利な国際分業を強いられた状況にあったから。しかし、本書のサブタイトルが長期の19世紀とあるように、その時期に対する新たな見方、つまりヨーロッパの影響下でもアジアの経済的ダイナミズムが失われていなかったことを示す論考を本書はまとめたものです。冒頭の総論の中の「帝国とネットワーク」という考え方の提示はちっとも分かりやすくないしなんでこんなこと言うの?というふうに感じましたが、第1章以降はどの論考も面白く読めました。
清朝期の東アジアの貿易を朝貢システム論で理解することの不自然さ、中国の記録類には朝貢システムの言葉で記載されていることでも実態はそうではなかったこと、ヨーロッパ的な自由貿易とは必ずしも同じ形態ではないにしても、朝貢ではない互市という形の貿易を禁じないことにより、明朝期にあった倭寇のような問題が起きずに済むようになったことなどが、第1章 帝国と互市には分かりやすく説明されています。朝貢システム論を説いた論考よりもずっと受け入れやすく感じました。
第7章「つなぐと儲かる」には、華僑のネットワークを扱っています。具体例として、出稼ぎに行った中国人が海外で死亡した時にその遺骨を故郷に戻すシステムのあったことが紹介されています。苦力として海外に赴くのはきっと貧しい人にとってもためらわれることだったでしょうが、こういうシステムの存在がいくらかは和らげていたのでしょうね。
などなど興味深い話題がたくさんで、勉強になります。また、本書全体を通して、この時期のアジアでアジア間交易が量的にも増えていったことが記されています。ウエスタン・インパクトを限定的にとらえようとする意図が編著者にはあるのだと思います。歴史にたらればは禁物かも知れませんが、そのウエスタン・インパクトがなかったとしても史実と同じように、アジア間交易が量的にも増え、また中国インド間のような遠方との交易が実現する過程をたどったものなんでしょうか。そのあたりに関する感想もあとがきなどで添えてもらえればと思ってしまいました。
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