Scott L. Thompson著
Schiffer Publishing Ltd.
2011年発行
教育・観光・娯楽・趣味などの目的で歴史的な衣装や道具・武器をつかって過去の事件やある時代の情景を再現・体験するrennactmentという活動があり、この本の著者はドイツ国防軍に関するrennactmentを趣味としているアメリカ人です。ドイツ軍は、少なくとも一日に一回は温かい食事を提供するという信念から、Gulaschkanone(野戦炊事車)を用いる給食システムをつくりあげました。著者は家畜を飼って食肉にすることを仕事にしていることから、reenactorとしてGulaschkanoneを使用して食事を提供することを思い立ちました。オリジナルのGulaschkanoneは今では珍しい存在ですが、戦後ずっとオランダの農家の納屋に保管されていて比較的状態が良好なものが売りに出され、入手することができました。錆びて傷んだ鍋を修理し、サンドペーパーをかけ、ペンキを塗り直し、木の車輪をアーミッシュの馬車大工に修理してもらったりして使える状態にしました。
Gulaschkanoneは大きな車輪が両側についた箱形の低い車体に煙突と大きな鍋と薪などを燃やせる燃焼室が作り付けられていて、燃料や食材などを積んだ前車と組み合わせて2頭の馬の牽引で移動するようになっています。イメージとしては、昔の焼き芋屋さんのリアカーに積んだ石焼き芋装置をもっと立派にしたものという感じです。大きさ・製造時期などにより数タイプがあるそうですが、著者の入手したものは1939年製造で200リットルのスープ鍋と90リットルのコーヒー沸かし釜のついた、一個中隊225人用のもので、調理のためのナイフや缶切りや寸胴などもセットされていました。後期に製造されたタイプにはオーブンがついていて肉やハムもローストできたそうです。スープ鍋には圧力釜としても使えるような蓋とガス抜き弁がついていて、薪を燃やして加熱した後に蓋を密封すると、戦況により移動を余儀なくされても調理が進行する仕組みになっていました。
ノルマンディでのアメリカ軍との戦いを再現するreenactorの公開模擬戦闘に参加して、 自家製の肉・ソーセージも使ったスープなどのレシピを、食材の皮を剥き小さく切るところから調理を始め、大戦中に実際につかわれた保温容器による配食までを実演して、カラー写真で紹介してくれています。戦車やハーフトラックやMG42などを装備したドイツ兵とジープやM5軽戦車やM4中戦車を装備したアメリカ兵が参加していて、兵士の方々が少し年齢が高く太りすぎな点を除けば、豪華で見所たっぷりのイベントです。それにしてもreenactmentというのはかなりお金のかかる趣味ですね。
本書には大戦中のGulaschkanoneを囲む兵士のモノクロの写真や経験談もたくさん収載されていますが、兵士たちの笑顔がとても印象的です。兵士の一日が食事を中心にまわっていた、暖かい食事を本当に楽しみにしていたことがよく分かります。このGulaschkanoneで野戦炊事に携わった人たちは軍人だったんでしょうか?その点については記載がなく、本書はモノとしての資料的な情報を求める人には適切な本ですが、史料を期待して読む本ではありません。また本書につかわれている英語はきわめて平易、しかも写真が多くて字は大きめで、短時間で読めてしまいました。この本も Printed in Chinaですが、誤字の多いのだけが気になりました。
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