2012年5月13日日曜日

The Battle for the falklandsの感想 続き


本書の中の日本についての言及は、国連安保理の非常任理事国だった日本が、イギリスの提案したアルゼンチン軍即時撤退の決議案に賛成したことをふくめて4カ所しか見あたりません。EECはアルゼンチンとの貿易を一時凍結したそうですが、日本はどうだったのかな?と疑問に感じても触れられてはいません。まあ、その程度の関わりしかない遠い国でもあり、またフォークランド紛争は30年も前のできごとですが、それでも学べる教訓がたくさんあると私は感じました。
イギリスがフォークランド領有の正当性について主張できたのは、永きにわたって実効支配して来たことと、島民がイギリス帰属を希望していることの2点です。アルゼンチン側は先占の事実とそれがイギリスに奪われた旨を主張していました。これは、ロシアと日本との間で、ロシア側が実効支配と住民の意思、日本側が千島樺太交換条約以来の正当性を主張している北方領土問題にとてもよく似ていますよね。北方領土に住んでいる人たちは旧ソ連から移住したロシア人が多いのでしょうが、それにしてももう数十年ちかく暮らし続けている人も少なくないでしょう。ロシア領である期間が長くなるにつれ、こういった島民の意思を無視しにくくなってきていると私は感じます。ロシア人たちはもともとの島民じゃないという声もありそうですが、もともと近代になる前にこれらの島々に住んでいた人たちは日本に帰属する意識を持たない・日本語も話さない人たちでした。島民の自決権の尊重という点では、日本領時代に住民だった旧島民が、現島民よりも重視されて然るべきだとは思えません。こう考えると、北方領土に関しては領有権の主張を止めて、ロシア領ということで決着する方が、大局的観点からの日本の国益にかなうと私は信じます。領土要求を断念することに反感をおぼえる人もいるでしょうが、このフォークランド問題でも、あまりに長い間、お互いの譲歩がなかったことが戦闘にまでいたったわけです。また、敗戦間際の日本に対して火事場泥棒をはたらいたソ連の肩を持つのかといって怒る人もいるでしょう。でも、そう思うのなら、まずはあの火事場・敗戦という惨事を招いた東条英機やら陸海軍の軍人・政治家のお墓にでも向かって文句を言うべきですね。
また日本が実効支配していることになっている尖閣諸島についても考えさせられます。フォークランドの戦闘の呼び水となったのは、サウスジョージア島へのアルゼンチン「民間人」の上陸と、それに対してイギリスが南極観測船エンデュランス号でフォークランドから海兵隊員をサウスジョージアに移動させたできごとでした。同じようなことが尖閣諸島で起きることはないのでしょうか。警察力では排除できない規模の中国国籍を持つ「民間人」が尖閣諸島に上陸したら、どうなるのか。日本政府は自衛隊を出動させて排除しようとするのでしょうか?また、こういった行為に及ぶとすれば世界の情勢を眺めてのことでしょうから、「民間人」相手にアメリカ軍の介入は期待できないでしょう。もし、悪天候を口実にした中国軍艦船の尖閣諸島への寄港とそれに続く軍人の上陸があって居座ったとしても、アメリカが介入してくれることなんてありそうもないと思えるのです、フォークランド紛争での態度を見ると。日米安全保障条約は日本の領土内にアメリカ合衆国が基地を維持するためのもので、日本の領土の保全のための行動なんて、東日本大震災時の支援(もちろん、あれには大変感謝いたしますが)のように、政治的に支障のない範囲でしか実施してくれないでしょう、アメリカは。そう考えると、日本は中国と単独でことを構えるこのとできる国ではないし、このままだと心配。
ともあれ、国境をはさんだ近隣の諸国すべてと領土問題を抱えている日本の状況というのは危うい限りです。国益という観点からは、短期的には損にみえるような方法であっても、損して得とれと考えて領土問題に決着をつけておくべきじゃないでしょうか。

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