2008年11月1日土曜日
プラートの商人
イリス・オリーゴ著 白水社
2008年4月発行 本体5600円
中世イタリアの日常生活というサブタイトルがついています。フィレンツェの近くにある町プラート出身のある商人が残した文書をもとに、かれの商人としての生活や家庭の様子を淡々と描いた本です。貴族や高級な聖職者ではなく、生まれはふつうの人でした。彼は中年になるまで、アビニョン捕囚時代のアビニョンを拠点に、イタリア・スペイン・フランスに支店を持って活動し、一代で財をなしました。
遠隔商人として成功した主人公ですが、嫡子がいなかったので財産の多くを慈善事業のための財団として遺しました。その際、自分が事業で使っていた文書類も保管するように遺言しました。文書の数は膨大で、だいたい500冊の帳簿、数百の契約書・保険証券・手形、14万通余の書簡などからなり、現在でもプラート市にある元の彼の自宅だった建物が文書館とされ、そこに保管されているのだそうです。日本で言えば南北朝の頃ですが、これだけの量の史料が残っているとはうらやましい。
中世ヨーロッパの商習慣はブローデルなどの本で読んだことがある(というか、この商人の文書の方がブローデルなど経済史家のネタ元の一つなのでしょう)ので新たな発見は読んでいてあまりなかったのですが、人件費が安くて物の値段が高いことには驚きます。服をあつらえる際に仕立屋の手間賃より服地の値段の方が高いのはまあそういうものかなとも思うのですが、自宅の壁に壁画を描いてもらう際の画家への謝礼より絵の具の代金の方が高いというのには呆れてしまいました。
原著は1957年と半世紀前の本。日本版は1997年に初版が出て、今回は書物復権という8出版社共同企画の帯をつけた新装復刊版でした。でも、こういう本は古くなりませんね。
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