2008年11月9日日曜日

正倉院


杉本一樹著 中公新書1967
2008年10月発行 本体800円

正倉院に関しては、聖武天皇ゆかりの品々や東大寺大仏開眼会で使われた品々が収められ、また写経所文書をはじめとした正倉院文書が残されていることを、中学校・高校の授業で習ったと思います。この本は、入門書としてまずはその点を分かりやすくおさらいしてくれています。さらに、奈良時代のことに加えて、その後1200年の正倉院の歴史を解説してくれている点が、本書の一つの特色でしょう。

光明皇后により正倉院に収められた薬品類は、その後100年にわたって払い出され、人気のある薬剤は払底しました。9世紀後半になると、唐・新羅の商船が貿易目的で渡来するようになり、薬品の入手が容易となって、正倉院から出庫されることはなくなったそうです。8世紀中頃の光明皇后の時代には商船の往来は少なかったのでしょうが、正倉院に収めた大量の薬品はどうやって入手したんでしょうか。

足利義満・義政や織田信長が蘭奢待を切り取った話は有名です。でも、その後の豊臣秀吉や徳川家康は切り取りをしていません。秀吉は正倉院自体に興味がなかったようです。しかし、家康の場合には、修理の計画を立てるために家臣を正倉院に派遣し、宝物保管用の長持を贈っています。興味がなかったわけではなく、蘭奢待を含む正倉院の宝物を保護すべき文化財として考えていたのでしょう。家康が読書家であることも影響しているでしょう。また、江戸幕府がそれ以前の武家政権と比較して、公的な性格を強めている証拠にもなりそうなエピソードです。

正倉院の管理は宮内庁が担当しているとか。また、正倉院の建物自体は国宝に指定されているそうですが、中に収めてある宝物は国宝ではないのだそうです。ちょっと意外な感じでした。あと、ちょうど今、第60回の正倉院展が行われていますが、奈良なので気軽に行けないのが残念。

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