2008年11月11日火曜日

日本の経済成長と景気循環


藤野正三郎著 勁草書房
2008年4月発行 本体6400円

江戸期以降の日本の景気循環をあつかった本です。主に江戸時代を対象とした第1部と、明治以降を対象とした第2部とからなっています。江戸時代の景気・経済成長を考える際につかえる史料として最も一般的な物は物価で、物価をもとにした研究はこれまでにもありました。ほかには役に立つような経年史料がないかと思っていましたが、本書ではこれまでにつかわれていないような史料が材料とされています。

例えば、土木学会がまとめた「明治以前日本土木史」という本には、江戸時代の農業建設活動の工事数が各年度各地方ごとに表として載せられています。著者はこの工事数を農業生産成長の指標として活用しています。ほかに、ある海域での商船の難破数、日本海航路のある港の廻船入港数・取引品目・取引数、関東地方各地での絵馬の各年の奉納数などを経済活動の指標ともしています。

その結果、1800年以降にはいわゆる長期波動が検出されるようになり、1830年以降には中期循環に加えて、西日本では短期循環もはっきりと見いだされるとのことです。また、東日本と西日本の景気は完全には連動しておらず、全国市場の成立は明治以降、通説どおり1900年頃になるそうです。

近世初期の日本の人口は、速水融さんの推計以来980-1200万が通説になっていたと思います。しかし、本書では1800万くらいの方が妥当なのではとされています。近世初期の人口をあまり低めに見積もると、農業関連の工事数から見積もった農業生産と見合わず、近世初頭の1人当たり農業生産がその後よりも多くなってしまい、17世紀を通じて1人当たり農業生産が低下してゆくことになってしまうのだそうです。どちらの推計も限られた史料から工夫を凝らして算出されたものですが、速水さんの人口推計が低すぎるのか著者のつかった農業土木工事件数のみからする農業生産成長の推計が低すぎるのか、どちらが正しいのか興味のあるところです。

第2部以降は、3つの章からなります。一つは、日本の1888-1940年の景気循環の時期を示したもので、多くの系列データの組み合わせから矛盾なく出された妥当な結論のようです。

次の章は、もっと巨視的に17世紀以来、現在までを見据えた世界の超長期の景気循環・コンドラチェフ波を著者なりの観点から説明してくれています。本位制と金銀比価、政治経済制度の変化が関与しているとするとともに、「産業革命」という言葉をコアの各国間で製造業の比較優位が変化するような技術革新がおきることにあてはめているのが独特でしょうか。日本の「産業革命」は占領期終了後とされているなど、まあ一読の価値はありかな。

最後は「付論 人間と国家と革命」というタイトルで、社会体制の変化の要因・歴史を経済的に説明しようと試みられています。著者の持論なのだろうとは思いますが、独特すぎるのでうんうんと頷いてばかりはいられませんでした。

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