2009年12月6日日曜日
オセアニア学
吉岡政徳監修 京都大学学術出版会
2009年10月発行 本体7000円
中身は、人類の移動と居住戦略、環境と開発、体と病い、植民地化と近代化、文化とアイデンティティという5つの分野に関する40ほどの章に分かれています。日本オセアニア学会創立30周年の記念出版ということから多数の方が執筆しているので、一つ一つの章はあるテーマを短くまとめて紹介する感じになっています。オセアニア学というのは、個々の島のflora・faunaや、珊瑚礁・火山島の特徴、海流とか気候とかそういった自然科学的なことは対象ではないようで、主にオセアニアに住んでいる人間を対象にした学問なのですね。買って読んでから気付いたので、個人的には期待はずれ感が否めません。
考古学や言語学的な成果から、順にどの島から人が移住していったのかが紹介されていて、人類の移動と居住戦略というテーマが一番面白く感じました。オセアニアへの第一の人類の移動は、海面の低下した5万年前頃にサフル大陸(オーストラリアとニューギニアが陸続き)へ、そこからソロモン諸島までは一万年前くらいまでに拡散していたのだそうです。海面の低下していた頃に人の住んでいた遺跡の多くはもしかすると現在は海面下にあり発掘不能で、じつはその時期に海から離れたところに住んでいた人たちのことしか考古学では明らかにできない点は、問題にならないのかということが何となく疑問に感じました。
体と病いというテーマではマラリア対策に関する章が興味深く読めました。子供の成長の地域差や、糖尿病の多いことは、やはりそうなのかという程度の印象。また、この地域の人口に関する章もありましたが、現状について触れられているだけなのが残念。島という環境なのでヨーロッパ人との接触以前にも人口の調節が行われていたと思うのですが、どんな具合だったのでしょう。またヨーロッパ人からもたらされた感染症などの健康被害によって人口が激減した時期があったように書かれていますが、その程度やその後の人口増加(回復)の様子や、人口の変化が社会に与えた影響など、読んでいてとても知りたくなりました。でも、こういったことは史料が無くて分からないのかも知れません。
先住民運動というテーマでニュージーランドにおけるマオリ語のテレビ局や幼稚園などの事例が取りあげられていました。ただ、先住民だから一般的に考えて生活が苦しいのかなという程度の認識しかない私にとっては、実際にニュージーランドの都市や非都市に住むマオリの人たちが、それぞれどんな仕事をして何を食べてどんな家に住んで何を着ているかなどなど、実際にどんな暮らしをしているのかも提示してもらえないと、いまひとつ理解が深まらなかった印象です。
あと、この本に関しては造本に大いに問題ありです。570ページもあって、しかも用紙が薄くないのにタイトバックで製本されているので、開きにくくて読みにくくて仕方がない。ざっと我が家の本棚を眺めてみて、この厚さの本でタイトバックなんて、ほかには一冊もありません。絵本なんかなら薄いからタイトバックにするのも分かるのですが、この本をタイトバックにした編集者は何を考えていたのでしょう。よほど無能な編集者なのか、またはホローバックにしない何か特別な意図があったのか、謎です。
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