阿部武司・中村尚史編著 ミネルヴァ書房
2010年2月発行 本体3800円
前回のエントリーで紹介した第1巻に比較して、企業の労働組織、生産組織や統治構造などを扱う章が目立つこの第2巻はいかにも経営史の教科書といった趣で、勉強になった点がたくさんありました。
近世紀の小農は、年貢納入にあたって、現物納付であることによって市場における価格変動リスクから隔離されていた。さらに、村内においては五人組が年貢債務を連帯保証し、そして領主に対しては村が年貢債務を連帯保証する村請制がとられ、くわえて、1村全体の作柄が悪いときには年貢が減免されることにより、気候変動リスクも分散されていた。しかし、地租改正によって村請制と現物納付が廃止され、土地所有農民は単独で気候変動リスクと市場価格変動リスクを引き受けることになった。現実には、多くの農民にとってそのリスク負担は過大であり、小作農に転落した。1870年代には20%代であった小作地率は1900年代までに40%代後半に達したのである。そして、東日本を中心に、地主が小作料を現物で徴収し、また不作時には小作料を減免する慣行が成立した。近世的なリスク分散の制度を地主制が代替したのである。これは第2章で労働市場を説明する項にあった表現ですが、第1巻で取り上げられていた友部謙一さんの前工業化期日本の農家経済もそうですが、戦前の地主制というか小作に関する評価がここ20年くらいで様変わりしてしまっていることを、改めて確認させられます。もちろん、第2章全体としての論旨には異論はないのですが、
そして、事業の性質や事業者の行が、金融に特化した専門化には相当程度に観察されるが、一般の投資家が財務諸表のみでその善し悪しを判断することが難しいとすれば、中央の市中銀行や地方の大銀行による間接金融が望ましいであろう。第2章の62ページ真ん中くらいにあるこの記述は日本語として理解不能。「行」は行動、「専門化」は専門家の誤植でしょうか。
条約改正論議の一般的な基調をみると、欧米諸国との政治外交的・経済的対等関係は確立したいが、国内市場から外国人を制度的に排除し、実質的に日本に有利に機能している居留地貿易制度は、とくに中国商人の活動に対する危機感を背景にして維持したいという矛盾した感情が、おそらく偽らざる本音であったのではないかと思われる。これは関説「外国商人の活動」にある表現ですが、勉強になる指摘。
間接金融と直接金融という区別そのものが曖昧な面を持つことも留意しなければならない。例えば、投資家が銀行の株式担保金融を直接・間接に利用して株式投資することは、日本でも欧米でも見られるけれども、それは、産業企業の資金調達サイドからすれば直接金融であるが、貯蓄主体の資金運用サイドから見れば銀行を経由する一種の間接金融ということになる。これは、第7章「企業金融の形勢」での指摘。この章では、財閥系企業でもほとんどが直接金融で資金を調達していた訳ではないことを、例えば三井物産が正金銀行から多額の貿易金融を受けていたことなどを示して説明しています。
第9章は、企業家的ネットワークの形成と展開のダイジェストで、財閥とは違う出資形態の株式会社、つまり奉賀帳を廻されたかのように多くの資産家が協同して出資するタイプの株式会社の実態を明らかにしています。ただ、このダイジェストだけではこの目のつけどころがシャープな研究の良さが充分には読み取り難いように感じました。章末で筆者が書いているように、ぜひ原著を読むべきですね。
どうでもいいことかもしれませんが、索引。古河鉱業などが、カ行に配置されてます。
0 件のコメント:
コメントを投稿