2011年1月26日水曜日

北の十字軍を読んだついでに、アレクサンドル・ネフスキーについて

アレクサンドル・ネフスキーはそそられる映画です。21世紀(ほんとは20世紀を生きた経験の方がだいぶ長いのですが)に生きる日本人の私が観てもそそられる作品ですから、ロシアの人には格別でしょう。特に、1938年に完成して好評だったにも関わらず、独ソ不可侵条約の締結とともに表舞台から消え、1941年のドイツのソ連侵入とともに再び脚光を浴びたのだそうですから、当時のロシアの人たちの士気を鼓舞するには最高の映画だったでしょう。
実際に観てみてると、悪者はロシア人を酷使するモンゴルの支配者たちと残忍なドイツ人の騎士団、アレクサンドルは英雄でもあるし優しいし労働にも手を染める模範的な人物、労働にいそしむロシアの人たちは立ち上がって協力して悪いドイツ人騎士団を打ち破った。これがロシア人なら誰にでも分かるように、というかロシア人でなくても誰にでも分かるように描かれています。ある意味、素朴とも言える映像です。大粛清の時代に作られた映画ですから、スターリンの覚えがよろしくないとエイゼンシュテイン自体にも危険が及んだかも知れなかったのでしょう。なので、ソ連の国策に反しない、プロパガンダ的な面ももつ映画を作ったのだろうと思います。
このエイゼンシュテインの映像は目的にも沿った良いものなのですが、20世紀前半の技術で作られた素俗な表現が21世紀の私たちにも魅力的なものであり続けているのは、プロコフィエフの音楽がつけられていればこそだと私は思います。涙を誘うところ、怒りをおぼえるところ、盛り上げるところ、鼓舞するところ、喜びの場面、それぞれにふさわしい音楽がついているのです。もとは映画音楽として作られたアレクサンドル・ネフスキーですが、単独で聴ける作品であるカンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」としてまとめられています。私はプロコフィエフの作品が好きですが、これはその中でも好きなものの一つ。全部いいのですが、特に第4楽章の「起て、ロシアの人々よ」の合唱を聴いていると、日本人の私でもほんとにうれしくなって、勇気も出てきそう。
そして、このロシア人の士気を鼓舞するという点では、このアレクサンドル・ネフスキーを小道具として登場させたレッドストーム・ライジングも忘れることができません。これはトム・クランシーの小説で、冷戦下のソ連と東西の熱戦を扱っています。イスラム教徒の個人的なテロで巨大な油田・精油所を破壊され、石油製品が不足することが明らかになったソ連が、不足分を西側から輸入して弱みを見せるよりも、備蓄があるうちに中東の油田地帯を獲得する冒険に乗り出すことを決定し、その陽動のために西ドイツにも攻撃をしかけるのです。西ドイツを悪者に仕立ててNATOの分裂を画策したKGBは、クレムリン内で謀略の爆破テロを行い、ピオニールの子供たちなどが死亡します。ソ連は西ドイツ人が犯人であるとでっち上げ、西ドイツの報復主義に対抗するという名目で戦争を始めるわけです。そして、その戦争へのロシア人の協力をとりつけ戦意高揚のために、ニュープリントと録音をフレッシュにしたアレクサンドルネフスキーがTVで放映されるのでした。ここから先、東西両陣営間の戦争が始まります。むかし、私にも娯楽として小説を多数読んだ時代がありました。このレッドストームライジングが、トム・クランシーの一番の傑作だと思います。文庫本で上下巻あわせて1100ページ以上ありますが、飽きません。おすすめです。

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