野間秀樹著 平凡社新書523
2010年5月発行 本体980円
ハングルは、子音・母音を表す字母をもち、それを組み合わせて文字にしている、とても合理的、論理的なシステムだということはなんとなく知っていました。そのハングルがいつごろ、なぜ、どうやって作られたのか、ハングルの持つ優れた性質、ハングルの使われ方、ハングルを用いた朝鮮語の表現・作品、日本の植民地化での動き、光復後にもっぱらハングルのみが使われるようになった事情などまで、新書というコンパクトな中に過不足なく納められ、分からせてくれます。本書は新書ですがきちんとした年表、リファレンス、索引が載せられていて、さらに学びたい人のために参考となる書籍の紹介もされています。平凡社はしっかりした新書を出す出版社ですが、この本はその中でも上等な部類だと感じました。
ハングルを作る際に、朝鮮語を子音・母音という音素に分解して、それぞれに字母を与えました。この音素という考え方が言語学の中では20世紀の発見だったことが説明されていて、ハングルの先進性に驚かされます。また、字母はその音を発する際の構音器官を模倣して形態を与えられたそうで、ハングルを創造した人たちのセンスには脱帽させられます。さらに、アクセントの表現や、正しい漢字音を普及するために朝鮮語にはない中国語の音を表す字母まで作られたそうで、本当に周到に計画されたことが分かります。
私がハングルを目にするのは、JRの駅の表示やウエブ・ブラウザ上くらいなので、デザインされたフォントしか知りませんでした。しかし、本書の中には宮体と呼ばれる毛筆で流れるように書かれたハングルが紹介されています。朝鮮語を知らない私には文字自体は読めないのですが、とても美しいということは直感的に感じ取れます。こういう世界もあるのですね。
ハングルが公布されたのは1446年でした。日本で仮名がひろくつかわれ、古今集や土佐日記などなどの文学作品が仮名で書かれるようになったのは10世紀ですから、それより500年ほど遅いわけです。日本列島に在住の人たちよりも、朝鮮半島に住む人に漢文・儒学・漢文学に堪能な人が多かったのは確かでしょう。でも、自分たちの母語で自分の思いを書きたいという希望はなかったのでしょうか?ハングルが創造されるまで、自国語用の文字が作られ広く普及することがなかったんでしょうか。また ハングルが創造されるまでは、朝鮮語による文学作品などはどうなっていたのでしょうか。そのあたりが気になりました。
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