2011年8月7日日曜日

絵図学入門

東京大学出版会
2011年7月発行
中世・近世の地図は絵図と呼ばれますが、日本図、世界図、国絵図、城下絵図、沽券図、検地絵図、論所見分地図、道中図などさまざまな種類の絵図のあったことが紹介されています。それに加えて、絵図の元となる測量の方法や、絵図を描く用紙にはどんな紙をどう仕立てたのか、紙を貼るための生麩糊の練り方、色彩豊かな絵図にはどんな顔料・染料が用いられたのか、大きな絵図を描くためにへら痕や針穴であたりをつけた様子、色の塗り方、などなど実際の絵図の描かれ方が説明されていて興味を引きます。また、江戸時代には、印刷されてひろく販売された絵図が多数出現したわけですが、江戸時代の出版と絵図の扱われ方の説明もとても勉強になりました。さらに、大きな絵図の展開の仕方やたたみ方、写真の撮り方、データの記録の仕方、絵図の出典表記法まで触れられています。リファレンスにも文献だけでなく、ウエブサイトが多数紹介されてます。さすがに21世紀の「絵図学入門」ですね。そして、読みながらいろいろ考えさせてくれる本です。たとえば
きらびやかな色彩で彩られた国絵図も、17世紀に江戸幕府がはじめて命じたときには、「色のついた絵にするように」とわざわざ指定しなければならない状況だった

川や海が青色、山や樹木が緑色なのは当然な感じがしますが、道を赤、各郡を色分けするなどの発想はどこからきたのかな?とか。学ぶ点が多く、しかも面白く読める一冊でした。

残されている絵図には古代や中世のものもあります。荘園図や紛争にあたって作成された中世の絵図は素朴な表現で、第三者である現代人にはその解釈自体が研究の対象となるものもありますが、本書の主な対象は江戸時代の絵図で、そういった観点ではとりあげられていません。また、カラー図版が多数載せられているのですが、どれも小さいのが残念です。値段を低くするためには仕方がないのでしょうね。

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