2012年3月2日金曜日

南北戦争記

ブルース・キャットン著 
益田育彦訳
バベルプレス
2011年4月30日
本書を読んで、この有名な内戦について勝敗と奴隷解放くらいしか知らなかったことを再確認させられた感じです。奴隷制をめぐる対立が続いていた状況のもと、リンカーンの大統領選出により南部の州が離脱を決意。しかし双方とも本気で戦争を想定して準備していたわけではなく、北軍の兵士のあいだでは戦争の意義が明確ではなかったのに対して、郷土防衛のために参戦した南軍の兵士たち。人材的にも南軍指揮官に利があり、当初は互角以上に戦うことができ、一時は英仏など外国からの承認を取り付けることに成功しそうな状況だったこと。しかし、総力戦になれば経済力・人口の差が大きく、北部海軍によって綿花の輸出・軍需品の輸入が封じられ、ミシシッピ川が制圧されて南部連合の領域は分断されてしまいました。それでも、長引く戦争と多数の戦死傷者は北部の人たちに厭戦気分をもたらし、リンカーン大統領の再選が危ぶまれる時期もありました。しかし決定的な南軍の勝利は得られず、防勢においこまれた南軍は各個撃破され、降伏にいたったということです。著者はジャーナリスト出身の作家だそうで、この4年超の戦争を読者が理解しやすいよう、主要人物とエピソードを配して綴っていて、日本でいうと司馬遼太郎の作品みたいなものなのかもしれません。訳文もこなれていて、興味深く読めました。
リンカーンの大統領選出を機に南部の州が離脱を決意してから、4年余り。南北の首都がわずか100マイルしか離れていないことを考えると、こんなに長く戦争が続いたことが不思議でしたが、開戦後に兵を募って訓練するところから始めていたことや、南軍の最強軍団がリッチモンドを守りワシントンを脅かす位置にいたことなどから、こうなっていたわけですね。
合衆国軍隊は、南部連合に役に立っている資産を接収するように指示されていたが、実際にわかったのは、南部で最も有用な財産は黒人奴隷である、ということだった。北軍兵は、奴隷に対して人としての同情をほとんど示さなかったし、奴隷を資産であることに、特に反対を唱えたわけではない。 
資産としての奴隷は、南部の戦争継続を支えた。そのため、奴隷を所有者から引き離す必要があり、連れ去られる時、その奴隷に何かしてやれることといえば、自由を与えてやることだけであった。
奴隷解放宣言は有名ですが、著者によると北軍兵士も北部の人たちも、必ずしも奴隷解放をめざして戦ったわけではなく、戦争後期に行われた南軍の経済的基盤を破壊する戦争行為の一環として考えるべきものなのでした。以前、アメリカ南部に生きるという、アラバマ州で19世紀末から20世紀を生きた黒人農民の聞き書きをまとめた大著を読んだことがあります。奴隷解放から一世紀以上経過したその頃でも差別が厳しく残っていて、南北戦争が奴隷からの解放ではあっても、経済的に不利な地位からの解放を本気でめざしたものではなかったことがよく分かります。
また、第2期の当選後のリンカーンは統合のため南部に対して寛大な政策をとる意向だったが、その政策を公にする前に暗殺されてしまった。そして、後継大統領をはじめ連邦政府の政治家たちは戦争でハイになった北部の民衆を善導することができなかったという主旨のことが書かれていました。この本は専門書ではないので、それを裏付ける史料などは載せられていませんが、これが一般的な理解なんだとすると、リンカーンの評価がアメリカの歴代大統領の中でもトップクラスである理由が理解できた気がします。
本書には戦争中の南部の様子についてはわずかに記載があるものの、戦後についてはほとんど触れられていません。南部の人たちの生活や意見や、またカーペットバッガーや北部の人たちの生活者としての本音についても読んでみたい気にさせられました。それと、イギリスの「圧制」から独立してから一世紀もたっていないのに、同じように独立しようとした南部連合を容認しようとする意見が過半数を占めなかったことも不思議に感じます。このへんも詳しく知りたい感じです。

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