2008年5月26日月曜日

『印刷雑誌』とその時代

『印刷雑誌』とその時代
印刷学会出版部編集 
株式会社印刷学会出版部
本体8600円

実況・印刷の近現代史というサブタイトルがついています。印刷雑誌というのは、明治24年から続く印刷業界の雑誌です。業界誌とはいっても、かなり啓蒙・学術的な色彩も強いもののようで、現在では株式会社印刷学会出版部から発行されています。

本書は800ページ以上の大冊です。初めの170ページは第一部近代印刷史歴覧にあてられ、文字通り近代日本の印刷の歴史が、印刷技術、カラー印刷、デザイン、組版、タイポグラフィーにわけて解説されています。また、第二部は印刷雑誌記事集成ということで、600ページ以上にわたって明治時代から21世紀までの記事のピックアップが収録されています。監修者が6人もいるのは、さすがに学会の発行物らしく、ご愛敬。

第二部には印刷技術の解説記事がたくさんありました。印刷機の解説記事は現在に近くなるほど、素人の私には理解が難しい感じです、しかし、明治から戦前の機械や技術は比較的単純で、それらに関する記事はとても分かりやすく勉強になりました。

また、時代を遡るほど、ヨーロッパやアメリカとの印刷技術やデザインの格差に触れる記事が多かった様な気がします。専門家からみると格差は歴然だったでしょうから、こういう技術者の中には、アメリカとの戦争が始まった際に敗戦を予期した人が少なくなかったのではと思わされます。しかし、物言えば唇寒しという世情から、戦時中の記事は精神論的でした。

あと、本筋からは外れますが、戦争中の話として陸軍の登戸研究所で中国重慶政府の紙幣の偽札作りに実際に携わった人の手記が載っています。「重慶側も日本が偽造しているのは分かっていたが、真偽の判定ができず、放置するよりほかに方法がなかったようである」など興味深く読みました。ただ、この手記自体は21世紀になって書かれたものです。敗戦後も機密保持を求められたのでしょうが、墓場まで秘密を持って行かずにきちんと明かしてくれた手記の筆者には感謝です。

現在に近くなる第六章バブル経済と失われた十年、第七章IT時代の印刷には、MacやDTPに関する記事がかなり多くなっています。しかも、この二つの章が扱う27年間でハード・ソフトともに大幅に進歩しました。でも、「日本語組版には厳格なルールは存在しない」などという記事があるので、問題点は残っているのですね、

珍しいことですが、この本の奥付には1800部と発行部数が示されていました。この発行部数はかなり少ない感じがするので、基本的には業界関係者向けに出版されたものなのでしょう。たまたまジュンク堂池袋店の書棚で見かけて、面白そうだったので買ってしまいましたが、全然畑違いの素人で買ってる人は少なそう。ジュンク堂は遠いけれど、こういう珍しい本に出会えることがあるので、ときどきは出かけることにしています。

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