2009年3月22日日曜日

日本における在来的経済発展と織物業 感想続き

専門家の方には当たり前のことなのかもですが、本書を読んでいてとても驚いたことがあります。それは、織元の支払う費用の中で工賃の占める比率がとても低いことです。これは本書の331ページにあるグラフですが、第II部で紹介されていた入間地方の織元の滝沢家が1918年の各月に支払った費用と入金を示しています。

白抜きの棒は収入、黒塗りつぶしが工賃で、点がちりばめられている棒が綿糸支払いです。工賃に比較して綿糸代の支払いが圧倒的に多くなっているのが見て取れます。滝沢家の取引相手はみな、力織機ではなく人力で動かす織機を使っていました。19世紀末にバッタンが導入されても一反織るのに半日程度かかったそうなので、織物の費用に占める人件費ってもっと多いものかと思っていました。

もし現在の日本で手織りの綿織物を作って売ろうとしたら、その費用のほとんどが人件費になるに違いありません。人件費が高くモノの値段が安い現代の日本とこの頃の社会とでは、生活に関する常識が相当に違っていたものと思われます。昔々、古着の売買が一般的だったり、屑拾いが職業として成り立ったり、衣類や身の回りの品で質屋さんが利用されたりなど、モノが大切にされていた背景には、こういう事情があったからでしょうね。

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