2010年2月27日土曜日

戦間期の日ソ関係


富田武著 岩波書店
2010年1月発行 本体6000円
干渉戦争から国交回復後の両国関係の概観が第一章で述べられ、漁業交渉、日露協会、情報・宣伝戦がそれぞれ一章づつにまとめられています。ドイツと並んで日本のスパイであるというでっち上げの罪状で多数の人を処刑した大テロルを引き起こすことになるスターリンが、満州事変にめだった干渉をせず、またその後に中東鉄道を満州国・日本にあっさり売却したことなど疑問でした。でも、国内の政情をきわめて不安定にさせる飢餓輸出(この時期はかなり外国為替の交換レートもかなりのルーブリ安だった)をしてまでも第一次五カ年計画をすすめて、軍事力を充実させたい事情があったということで、納得。その結果、内戦とその後の一時期に極東に置いた軍事力が減少したことはありましたが、二流の陸軍である日本陸軍(日本は大きな海軍を維持していたので仕方がない)よりもロシア・ソ連の陸軍の方が充実していることが常態だったわけです。
北カラフトの石油や漁業など、ソ連領内に日本の経済的な利権が存在したことも、知ってはいましたが、不思議な感じでした。漁業利権はもともとポーツマス条約にもとづくもので、石油の方はシベリア出兵時に占領した北カラフトからの撤兵の見返りに獲得したものです。北洋漁業はソ連領海内の漁場を入札で獲得して操業するもので、ソ連人との競争や、日本の漁業者の間での競争もありました。必ずしもソ連側が日本の漁業者を閉め出そうとしていたわけではなかったとのことですが、競争に勝てないと日本の漁業者は国に頼ったり世論に訴えたりしました。「漁業問題は国民的感情を刺戟し政治問題化しがち」だったのは、現在の地中海クロマグロや捕鯨の問題と同じですね。ただ、日本政府も
露領漁業における邦人の有利な地位といっても、革命の混乱に乗じて得たもので、その後のソ連の秩序回復、産業発展に応じて日本側の勢力維持が困難になるのは当然だ
という認識を持っていて、ことを荒立てないように対応していたことが本書では明らかにされています。蟹工船の操業の裏側にあった事情がよく分かります。
学ぶ点が多い本ではあるのですが、本書の対象とした期間は1937年までで、張鼓峰事件、ノモンハン事件、独ソ不可侵条約、日ソ中立条約など面白いできごとの続く時期が扱われていません。これについては大テロルの影響で史料の存在や信頼性に問題があったからと終章で著者も述べていますが、残念ではあります。

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