丸谷才一著 講談社学芸文庫
2004年8月発行 本体1200円
冒頭には、文庫本で80ページほどからなる「日本文学史早わかり」が載せられています。ヨーロッパの流儀を真似てそれまでに書かれていた講壇型の日本文学史には政治史にならった時代区分などの胡散臭い点があると感じた著者は、日本の文学状況の特徴である多数の勅撰集の存在に着目し、これらの勅撰集を目安にして時代を分ける文学史を提案しています。まったく、頭のいい人だな。
- 八代集時代以前(宮廷文化の準備期)
- 八代集時代(宮廷文化の全盛期)
- 十三代集時代(宮廷文化の衰微期)
- 七部集時代(宮廷文化の普及期)
- 七部集時代以後(宮廷文化の絶滅期)
現代でこそ詩・詩集・詞華集はまったく流行りませんが、江戸時代だって、庶民が手にする文学作品の多くが、勅撰集の歌や源氏物語を下敷きにしていたわけですから、宮廷文化の普及期だと言われれば、たしかにその通りと頷かされます。そして、天皇が恋歌を詠まなくなった私たちの時代が、宮廷文化の絶滅期という著者の指摘は鋭い。もちろん時代区分だけではなく、その時々で最高の批評家兼詩人を選者として勅撰集が、単にすばらしい歌を集めた詞華集であるというだけではなく、収められた歌の集団が絵巻物のように編まれていたことなど、詞華集が日本文学史で果たした役割にかんする著者の見解もとても興味深く読めました。
その他、和歌に関する4つとその他に関する評論がいくつか収録されています。解説・年譜・著者目録をふくめて240ページあまりのうすい文庫本で1200円というのは高い気がしますが、売れる数を考えるとやむを得ないところなのでしょうね。でも、丸谷さんの評論はどれも面白いのでおすすめではあります。この本、しばらく前に近所の書店をチェックした時には置いてなくて、新宿のジュンク堂にもなくて、オアゾの丸善に寄った時に買いました。ところが、今日近所の書店に行ったらなぜか置いてありました。
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