2011年6月20日月曜日

朝鮮史研究入門

朝鮮史研究会編 
名古屋大学出版会
2011年6月発行 
本体4400円


「朝鮮史研究者のみならず……朝鮮史研究に関心をもつすべての方々に本書を活用していただきたい」と「はじめに」に書かれています。入門と銘打たれているので、「朝鮮史研究に関心をもつすべての方々」というのは私のような門外漢や学部学生も対象なんですよね。本書は時代・分野ごとに分けて主要な論点とそれに関する文献を多数の筆者が分担して紹介するスタイルの本ですが、その時代のその分野に関する知識がある程度ないと読めない、学生が入門として読むには少し無理があるレベルの本だと感じました。前提として当然知っておくべき知識と、評者の評価を相対化できる知識との両方が必要のようです。例えば、植民地近代化論に対して「植民地朝鮮の経済史的研究にとって、日本帝国主義による朝鮮支配を批判的な視点から分析するという課題は、なによりも重要視されるべき」とある筆者は書いています。日本は朝鮮に善政を敷いた・いっぱい貢献したなどという主張は問題外としても、アプリオリに批判的な視点をというのも一つの立場だと思って読まないとですね。
また、時代・分野によっては説明が不十分に感じられるところもあります。本文330ページ、文献リスト120ページもある本ですが、与えられたページ数が少なくて、やむなくそうしてしまった筆者もいるのではと推察されます。20ページある朝鮮史関連年表を削って本文にまわすとか、さもなければこういう本の出版では電子書籍化を真剣に考える時期にきているのではと、感じました。
近代の民族運動・社会運動史の研究は、民主化を目指した1980年代の隆盛と、社会主義国崩壊と北朝鮮の危機との90年代の不振というように、1980年代以降おおきく変化したのだそうです。それは、研究自体が強い政治性と社会性を帯びていたこと、南北の政権が植民地期の運動のうちに自らの正統性の源をもとめたことなどが原因だったのだとか。このように、近代史の評価に関して現代の政治の影響が非常に大きいことは当然のことですが、本書を読むと朝鮮の古代史や中世・近世史でも現代政治が尋常でない力を及ぼしていることに気付かされます。日本と朝鮮の間には「任那日本府」や広開土王碑などがあることは知っていましたが、日本関連以外にもいろいろ。例えば、北朝鮮は壇君朝鮮を史実としてみとめ、平壌近郊の「壇君稜」から出土した5000年ほど前の人骨を壇君のものと認定したとか。渤海が朝鮮史で扱われるほかに、中国では中国の地方政権史として扱い、ロシアではシベリア諸種族形成史で扱っているとか。韓国では「統一新羅・渤海の併存期を南北分立の時代と捉え、渤海滅亡後に一部移民を高麗が吸収したことをもって民族統一国家の成立とする見方があるとか。これらの評価が定まるのは 南北朝鮮が統一され、周辺の国との関係が安定してからのことになるのかも知れません。
近代と現代の章には在外朝鮮人史という項が立てられていました。在外朝鮮人は日本にいる人たちだけではないのですね。当たり前のことですがあらためて学びました。

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