ちくま新書859
2010年8月発行
森浩一さんは、するどい指摘をところどころに含め、しかも読みやすく分かりやすく書いてくれる人です。前日読んだアッティラやフンだけでなく、私は邪馬台国についてもほとんど何も知らないので、本書を読んで学ぶ点がたくさんありました。例えば、三國志の東夷伝の中でも倭人についてが2013文字ともっとも字数が多いこと、取りあげられた人名もいちばん多いことから、魏が倭人に強い関心をもっていた、「ぼくの考えでは西暦紀元ごろから中国人は周辺の集団のなかで、倭人は突出して勝れた集団とみていた節がある」と書かれていて、そういう見方もあるのだと感心します。また、 一大率は邪馬台国の役人ではなく魏か公孫氏が派遣した人だという説の紹介と、これのオリジナルが松本清張だったことなど、まったく知りませんでした。
邪馬台国がどこにあったかとか卑弥呼とはどんな女王だったかだけに関心をもつ人は、本書は読まないほうがよかろう
と書かれていますが、倭人伝の本を読もうとする人でこの点に興味がない人はいないでしょう。森さんは九州説でこの本では狗奴国を熊本の白川以南の熊襲にあてています。そして、卑弥呼は狗奴国に無断で魏に遣使して狗奴国と不和になったこと、九州島を分裂させた卑弥呼を魏は見限って難升米に檄分を与え張政を派遣したこと、責任をとって卑弥呼は自死したこと、その後も張政は倭国に長年滞在し元は卑弥呼に与していた勢力をヤマトに東遷させて台与の即位につなげたことなどを想定しています。さらに、明治時代に張撫夷という名の塼が出土した帯方群の古墳は、分裂した倭をうまく処理した功績で張撫夷という名を名乗るようになった張政の墓だろうとしています。
張撫夷古墳というものの存在を初めて知りました。倭人伝とからめたストーリーは、その正否は別にしても、夢があっていいですね。また東遷説についても、賛否は分かれるだろうと思いますが、なぜああいうかたちで神武東遷が語られたかと考えると、その基礎となるような史実がまったく存在しないとするのも不自然だと主張にも理があるような気がしてきます。
0 件のコメント:
コメントを投稿