中公新書1945
2010年5月30日 5版
江戸時代の大名を類別する際に一般的に用いられるのは、将軍との親疎関係により親藩・譜代・外様の三つに分ける方法である。しかし、江戸幕府が大名をこのように分けた史実はなく、大名の家格としては存在しなかったのであるでは史実ではどうなっていたのかというと、武鑑の毛利家の項を例に、江戸城に登城した際の控えの間=出席する大名たちの殿席と官位によって大名が類別し統制されていたと述べられています。大広間詰とか帝鑑之間といった言葉については知っていたので、本書もそういった説明で終わる本なのかなと思って読んでいくとそうではありません。江戸城の本丸御殿の絵図が示され、大広間や帝鑑之間といった部屋の大きさがどのくらいでどこにあり、将軍のいる奥との距離はどうかといったことが図示されていて、幕府の大名に対する扱いが客観的かつ具体的に理解できます。
また、老中の執務室である御用部屋とが時期によって変遷し将軍のいる奥から離れていったこと、老中が出勤して執務室に歩いてゆくルート、老中が執務時間中に部下たちの勤務場所を歩いてまわる「廻り」を毎日行って情報交換をしていたことなどが絵図上に示されています。老中・若年寄を表の長官・副長官とし、奥右筆を政務秘書官と呼んでいることともあわせて、理解しやすく工夫されています。
このように、江戸幕府の政治の仕組みとその動き方を54のテーマにわけて、表と奥と大奥に分かれた江戸城本丸御殿の構造・部屋割り、幕府の各部署に所属した人の数・出身・在職期間といった客観的な証拠から、説明している本でした。 本書には以前に読んだことのある旧事諮問録からもいくつか引用されていますが、本丸御殿の内部が示されているだけに一層理解が深まります。本書には本丸御殿と幕府政治というサブタイトルが付されていますが、まったくそれにふさわしく、しかも斬新な内容の本で、とても感心させられました。本書の方法は、例えば発掘された平城宮などの構造から朝政・朝儀の様子を考えたり、日記や記録類に加えて内裏の建物や部屋の配置図を平安時代の政治活動を理解に役立てたりすることと、似ている感じですね。現在でも、国会や地方議会の議事堂の内部構造には似ている点が多いし、裁判所の法廷も類型化されているので、そういった材料から、政治活動や裁判の実際の進められ方を論じることもできそうです。
その素晴らしい本書ですが、収録されている図版が小さくて説明に付されている文字が小さくて読みにくいという点だけが欠点です。収録されている図版は著者の他の著作などに収められていて、それらはもっと判型の大きなものだったのでしょう。新書版の小さなスペースに収まるように図が縮小されたので、文字も小さくなってしまったものと思われます。あらためて本文の文字と同じくらいの大きさで説明を入れ直してくれている図もあるのですが、 老眼の私が近視用の眼鏡をはずして、ようやく文字を読み取れるという図版がいくつもありました。
「小姓」が本書の中では「小性」と書かれています。「小性」と書くこともあるとは知りませんでした。そんなことも学べます。
0 件のコメント:
コメントを投稿