王其鈞著
恩田重直監訳
2012年7月31日 初版第1刷発行
イラストで見る中国の伝統住居というサブタイトルの通りに、中国の各地方、漢民族以外のものも含めた伝統的な住居をカラーのイラスト入りで紹介した本です。また、印象としては大人のための絵本といった感じです。中国では地方ごとにずいぶんと違った家に住んでいるんだなと私が初めて感じたのは、1986年から発行された民居シリーズの普通切手を目にしたときでした。このシリーズでは本書にも載せられている北京の四合院やモンゴルのパオ(ゲル)のような有名なものも取りあげられていましたが、特に興味をひかれたのは、瓦で屋根を拭かれた建物が同心円状に配置されている福建民居でした。いったいこれは何なんだろうと疑問だったのです。今回この本を読んで、円形の要塞状の家屋であることが分かり、疑問が氷解しました。同地方にはこの円形土楼だけでなく、長方形の建物を連ねた方形土楼というのもあるそうです。
第4章専守防衛の砦では、ほかにも防御を目的とした形の民家として江西省の贛南囲屋、広東省の梅州囲攏屋などが紹介されていました。銃眼やサーチライトまで備えているものがあったり、建築資材を欧米から輸入して20世紀になってから建てられたものもあったそうです。これら砦タイプの家は物騒な土地に建てられていたことが触れられていましたが、対象とした外敵というのが具体的にどのくらいの規模のどんな集団だったのかまでは書かれていないことが残念です。また、円形土楼の大きなものには全体で288室あると書かれていて、おそらく百人以上が住んでいたんだろうと思われます。むかしの中国には城壁で囲まれた集落・都市がありましたが、城壁都市の一番規模の小さいものと比較すると、円形土楼の規模というのはどのくらい?比較にならないほどずっと小さいものなのかどうかも知りたくなりました。
本書冒頭の日本語版前書きを読み始めたときには、中国人の著者自らが日本語で書いた文章かしらと思わせるようなぎこちない表現が散見されました。監訳者というのがいる本の翻訳はろくなものではないというのが私の一般的な認識で、本書もやはりそうなのかと危惧しました。しかし中身の方は「永春県の紅磚は色味が深く、豚の血のような深紅色」などというような、日本人ならとても思いつけないような比喩を使った説明文があったりはしても、訳文自体はこなれた日本語で興味深く読めました。
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