2009年9月18日金曜日

1968 の感想の続き


本書の主題は『あの時代』の叛乱を日本現代史の中に位置づけなおし、その意味と教訓を探ることにある。『あの時代』の当事者の方々のなかに本書の描写に違和感をもたれる方がいたとしても、ささいな事実誤認(と当人が思うもの)など小さな次元で反発や批判をするより、本書の主題をふまえた議論をしてくださることを期待する。
と著者は書いています。政治家を対象とした政治史とは違って本書の主題の対象となる「当事者」はきわめて多数であり、その中で確固とした目的とそれを達成するための手段とを意識して行動していた人は少なく、「あの時代」の流れの中で自分がどんな位置にいて何をしているのかがはっきり分かっていなかった当事者の方が多かったものと思われます。なので、本書の史実認識に多少の誤謬があったとしても、歴史叙述の大筋自体は「あの時代」を経験していない者が「あの時代」を知るために充分に役立つものだと感じます。また、私は各セクトの内実を知らないので、元・現セクト関係者が本書の記述を読んでどう感じるのかは分かりません。ただ、学生時代に民青の諸君(個人として面識のある人は良い人ばかりなのですが)にあんまり良い印象を持たなかった私にとって読みながらうなづいてしまう記述が多いところからは、(元民青同盟員や活動家でも後に日本共産党とは縁の切れた人はともあれ)おそらく元民青同盟員や活動家で現在も日本共産党に関係している人は本書の記述を面白く思わないだろうとは感じました。

その意味で筆者は、『連合赤軍事件の原因は何だったのかとか、無理に総括しようとしても、ろくな結論なんか出てきませんよ。何も出てこない』という青砥幹夫氏が2003年に述べた意見に賛成である。感傷的に過大な意味づけをしてこの事件を語る習慣は、日本の社会運動に『あつものに懲りてなますを吹く』ともいうべき疑心暗鬼をもたらし、社会運動発展の障害になってきた。しかし時代は、そこから抜け出す時期に来ているのである。
昨日のエントリーで書いたように連合赤軍事件はショックでした。ただ、連合赤軍事件からリアルタイムで衝撃を受けたのはせいぜい私と同世代までのはずで、私よりも若い現在30歳台以下の人たちがこの事件にどういった感想をもっているのかと言う点はぜひ知りたいところです。新左翼運動が、検討にも価しないものになったのは確かだと思うのですが、本当に連合赤軍事件が日本の社会運動発展の直接的な障害になっているとまで言えるのかどうかはよく分かりません。1968の頃の人たちから私と同世代くらいまでが羮に懲りて社会・政治運動を避けたために不毛の時代が続いて、それより若い世代が社会・政治運動に興味を持っても、パイオニアとして以外には活動しにくくなってしまったということになるのでしょうか。

東大闘争の発端となった医学部闘争について。「医学部卒業生が高度成長前と異なり開業医になるのが困難になった」と書かれています。1968の頃で開業が困難になったなどということはないはずで、その後も21世紀に至るまで開業医はどんどん増えました。実際に開業が困難になりつつあるのは、医療界で「1970年パラダイム」が崩壊しつつある現在のことだと思うのです。また、名大小児科の教授選で東大出身者が敗れたことをもって、医学部教授に東大医学部卒業生がなりにくくなったとするような記述もあります。たしかに旧帝大の教授にはその大学の出身者がつくようになったのでしょうが、1970年代に新設医大がつぎつぎとできたおかげで、その教授になれた人はかえって増えたはずです(新設医大の教授では不満だったのかも知れませんが)。もちろん、この開業医・医学部教授に関しては、当時の東大医学部生の認識を著者が記述しているというだけで、著者のささいな事実誤認とは言えないでしょうが。

高度成長下で漠然と抱いていた「現代的不幸」を、表現できる言葉が日本では流通していなかった。そうした彼らが選んだ言葉が、マルクス主義だったといえる。そうなれば、「疎外」論を中心とした人間的な側面がマルクスのなかで好まれたのは当然だった。
なぜ1968の頃の学生たちがマルクス主義の言葉で語っていたのか、とても不思議でした。彼らがマルクス主義による変革の実現を信じていたようには思えなかったので。でも、ほかに語る言葉を持たなかったということなら、納得できるような。むかし廣松渉さんの講義を聴いたことがありますが、疎外論・物象化論などが扱われていても興味を持てなかったことだけを覚えています。ただ、背景としてこういう初期マルクスの受容があったから、彼の研究が注目に価したものになっていたということが、今頃になって分かりました。

日本の学生叛乱と西側先進国の学生叛乱とを比較しても共通点が少ないという著者の主張でした。叛乱の同時性を説明するのに、著者は大学生数の急増を挙げていますが、これと背景にベトナム反戦運動があったことだけでいいのでしょうか。それより、西側先進国で大学生世代の人口の一時的な増加をもたらしたベビーブーマーの叛乱であったからこそ、同時性と大学生数の増加とを伴っていたとした方が納得できる気がします。

1968の感想

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