2010年1月16日土曜日
インボリューション
クリフォード・ギアーツ著 NTT出版
2001年7月発行 本体2500円
先日読んだ土地希少化と勤勉革命の世界史のなかで紹介されていて、おもしろそうだったので読んでみました。日本では1991年発行ですが、原著は1963年に発表されたものだそうで、古典と呼ばれるべき本ですが、古さは全く感じられず刺激的です。
オランダ領東インドはジャワ島とその他の島(外島)から構成されていました。ジャワは灌漑された棚田(サワ)での稲作が盛んで、東南アジアの中でも人口密度が高い地域でしたが、外島は気候や地形の条件から主に焼き畑農業が行われていて人口密度が低くなっていました。植民地期にはオランダ本国の財政を改善させるため、商品作物の栽培が強制的に勧められました。外島では既存の農地・住民と関係なく外部から労働者を招いてプランテーションが作られ、タバコ・ゴム・コーヒーなどが栽培されました。ジャワでは商品作物として主にサトウキビが栽培されました。サトウキビは新たにプランテーションをつくって栽培されたのではなく、地元の人たち所有の既存のサワに水稲とローテーションする形で栽培され、資本の必要なサトウキビの加工工場をオランダ人が所有するという形態がとられました。
サトウキビの収穫には多くの人手が必要です。サワでの稲作に支えられたジャワにはそれを可能とする人口があり、さらに1830年から1940年までにジャワの人口は3000万人も増加しました。しかも、既存のサワにより多くの労働を投入する方が新たなサワを作るよりも収量を増加させるには有利だったので、農地の面積はあまり増えず、労働集約的な傾向が一層すすみました。そのような状況のもと、サトウキビの増産を目指してサワに灌漑の改良工事が行われると、労働集約的な農法ともあいまって、水稲の単位面積あたり収量も増加して、さらに多くの人口を支えることができるようになりました。しかし、製糖工場や運輸業などはオランダ人に支配され利益もオランダにもたらされたので、オランダ領東インドでは工業など非農業部門に目立った成長は実現せず、非農業部門に多くの労働者が吸収されることもありませんでした。このため、増加する人口はサワでの労働をさらに労働集約的なものにすることで吸収され、一人当たりの所得がようやく低下せずに維持される状態が続きました。著者はこれをインボリューションと呼んでいます。
労働生産性を低下させずに土地生産性を高めることができる生態系をもつサワという農地の性質とオランダによる植民地支配下でのサトウキビ栽培の強制とが相まって、このインボリューションと呼ばれる状況がもたらされたということなのかと理解しました。内に向かう発展というサブタイトルがついていますが、全くその通りに感じます。私の理解は経済偏重な理解しかできていないかもしれませんが、そうだとしてもいろいろと妄想をたくましくさせてくれる魅力的な本でした。
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