2010年12月18日土曜日

漢文と東アジア


金文京著 岩波新書新赤1262
2010年8月発行 本体800円
漢文訓読について、日本での歴史・変遷、起源が漢訳仏典にあるらしいこと、訓読が日本のみならず朝鮮半島にもみられて日本には新羅から伝わったらしいこと、日本・朝鮮だけでなくベトナム・ウイグル・契丹などにも訓読に似たものがあることなどが読みやすく説明されています。特に漢訳仏典との関連は、とても勉強になります。
日本で書かれた漢文に倭習と呼ばれる表現が多いこと、漢字文化圏で漢詩がやりとりされたり外交文書が漢文で書かれたりなどしていたことはよく知られています。第3章漢文を書くでは、それらを説明するとともに、漢字文化圏の他の国でも倭習と同様の現象・変体漢文がみられることも述べられています。また、日本の古文書で頻繁にお目にかかる候文の起源が宋代の手紙の文体にあるとは知りませんでした。さらに、現在の日本の文章語の基となった明治期の新文体を変体漢文という視点からとらえること、そしてその明治の新文体が漢字文化圏の国々の現在の文章表現に影響を与えたという指摘には驚ろかされるとともに、一国史観を脱して東アジアの文化を総合的に考察するためには、規範的漢文(学校で習う書物の漢文)だけでなく、変体漢文を含めて漢字を用いて書かれたすべての文体の実態と相互関係を説き明かすことが必要だと指摘されていて目のつけどころのシャープさに感心しました。新書とはいえ、とても学ぶ点の多い本でした。おすすめです。

0 件のコメント: