2011年7月17日日曜日

イカの心を探る

池田謙著
NHKブックス1180
2011年6月発行
むかしむかし生理学の時間に神経細胞の活動電位の講義で、ホジキン、ハクスレーによるイカの巨大軸索神経の実検の紹介があったことをよく憶えています。捕食者からすばやく逃げるために太い神経を持っているのだろうなと思っていました。でも、イカは俊敏な運動のための太い神経線維をもつだけではなく、とても大きな脳を持っているのだそうです。タコの知能が高いという話はどこかで聞いたことがあるような気がしますが、イカもそうなのだとか。社会的な行動がみられたり、群の他の同種イカ個体を識別することができたり、鏡像自己認識の能力があったりなど、著者自身と世界中の研究者の実検で明らかにされたイカの能力がいろいろと書かれていました。
それらの実験系は、考え出したことに対しても感心してしまうような巧妙なものばかりでした。例えば、イカの赤ちゃん学をさぐるという章では、孵化前で卵のなかにいるけれど眼はできてきたイカにエサ動物をみせると、孵化後にそれを好んで捕食するようになるという実験が紹介されていました。これなんか、よくそういうことを思いつくなとあんぐりしてしまうような実験ですね。
鏡像自己認識の能力が証明されていた動物としては、ヒト以外にチンパンジー、オランウータン、ゾウ、イルカ、カササギがあり、著者の実検でイカにもこの能力があることが明らかにされました。鏡像自己認識能は高い知性をもつことのひとつの目安だとは思います。でも当たり前のことですが、目が良くないと鏡像自己認識のテストにはパスしにくいですよね。イカは充分な知性に加えて、大きな目と良い視力を持っているからこの実験にパスしたのでしょう。目の良くない動物に自己認識能の有無を知るための実験法はあるのでしょうか。また、取りあげられていた、群の他の同種イカ個体を識別能も、実験系から明らかに視覚によるものなので、イカさんはパスできたのでしょう。視覚以外による識別を行っている動物ならきっとほかにもいるような気がしますが、どうでしょう。
タコと違ってイカは飼育の難しい動物なのだとも書かれていて、これにも驚きました。というのも、やはり昔の話ですが、玄界灘に面した佐賀県の呼子町にあるイカの活け作りのお店には何度も通ったことがあったからです。刺身も天ぷらもおいしかったのですが、お店の真ん中の広いいけすには、いつもイカがたくさん泳いでいた記憶があります。長く飼育することが難しいのかな。

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