エンドレス・ノヴェルティ
フィリップ・スクラントン著
有斐閣
2004年10月発行
チャンドラーの経営者の時代を読んで、鉄道・電信などの運輸・通信部門の発達に刺戟されて19世紀後半のアメリカで生まれた、専門経営者、複数事業部制などを特徴とした近代的な大企業について学びました。それら大企業のうち製造業に属するものは、大量生産・互換生産などの生産のアメリカンシステムを体現していました。近代的な製造業というのはすべてそういうものかというとそうではないのだと指摘してくれているのが本書です。
製造業は対象となる商品の種類によって、注文に応じるカスタム生産、小口ロットごとのバッチ生産、大口のバルク生産、大量生産(マス生産)の4通りの生産の仕方をしていると著者は分類しています。例えば、工作機械は標準品をバッチ生産して在庫にもつ以外は、需要家の求めに応じてのオーダーメード=カスタム生産でした。マス生産をしていた企業だけが近代化したわけではなく、これらのバッチ生産やロット生産をしていた専門生産に従事する企業も独自の進歩、第二次産業革命と呼べる変貌を遂げたのでした。本書では、宝飾品、繊維製品、家具、機関車、工作機械、出版・印刷、電機製品(電球などはマス生産だが、大型発電機や蒸気タービンなどはカスタム生産)などの専門生産をしていた企業が取りあげられています。それらの企業の19世紀後半から20世紀への変化、とくに商品と流通・市場の性格がその業種の企業の大きさや盛衰にまで影響していたことなどが述べられています。例えば、宝飾品、家具、工作機械などの業種では、ひとつの地域に同業種の部品製造と製品製造とサービスを行う企業が集積してする傾向にありました。しかし、同じく集積していた宝飾品と家具を比較すると、新たなデザインの商品を他の企業が模倣しやすいかどうかで、業界の先行きが分かれてしまったことなど興味深く読めました。特に本書を読んでいると、日本の在来産業、新在来産業の近代化との類似性を感じます。
本書の欠点は日本語訳がまずいことです。英語の原著よりも価格のかなり高くなる日本語訳書を購入するのは、読みやすいだろうことを期待してのことです。拙い日本語訳の本を読むくらいなら、英語の本を買った方がましで、本書はそう思わせる本でした。
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