ハイム・ヘルツォーグ著
原書房
1985年5月発行
元イスラエルの軍人で情報部長・国連大使などもつとめた著者が、自らの経験を含めて独立戦争からヨムキプール戦争までの各戦役と、エンテベ空港襲撃事件やレバノン侵攻などについて解説した本です。図解と銘打ってあるように、比較的たくさんの地図が載せられていて、戦闘の推移が把握しやすいように配慮されています。iPadでGoogle Mapにある地形も参照しながら読むといい感じでした。すでに定評ある本であり、また訳もこなれていて、読みやすい本でした。
各戦役については本書で充分に理解できたのですが、ひとつ疑問が残ります。それは、なぜ周囲を敵対する国に囲まれたイスラエルが生き残ってこれたか、各戦役を通じて占領地・領土を拡げることができたのかという点です。もちろん戦争に勝利したからなのですが、なぜ勝利できたのかが疑問なのです。例えば、イスラエルの独立戦争は、きちんとした軍組織がない状態で戦われました。英軍などに従軍した経験のある人もいたわけですが、それは相手のアラブ側も同じで、かえって英軍公認の軍事組織まで持っていました。また武器についても、イスラエル側が密輸などの手段でイギリスに邪魔されながら武器を入手しなければなりませんでした。この状態で独立戦争に勝利してイスラエル国家を樹立できたのは不思議です。著者は、イスラエル人、イスラエル軍の士気の高さ、指揮官の率先躬行を挙げ、また
一般的にいってアラブの軍隊は、例外はあるが防御にたけている。事前に戦闘計画を準備できるからで、それから遊離すればおしまいである。攻撃はあまり得意ではない。下級指揮官に状況即応力が欠けているからである。硝煙たちこめる戦場では、状況は流動的であり予期せぬ事態が起こる。指揮官はこれに即応しなければならない。アラブ世界には相互不信が蔓延していた。イスラエルはいつも、アラブ諸軍間の無統制と団結心の欠如を衝くことができた。各個撃破が可能だったのである。アラブは一度も数的優位を発揮できなかった。一方イスラエルは、国内の交通線で行動し、アラブ世界内部の亀裂を利用できた。
とも述べています。これもたしかにひとつの説明ではあるのですが、ではなぜアラブ諸国の軍隊は状況即応能力に劣るのかという点に関しては本書も説得的な説明を与えてくれていませんでした。空戦のスコアなどから見て、イスラエル軍とアラブの軍との間には技量の差も歴然とあったようですが、それもなぜなんでしょう。アラブ諸国の指導者も多くの資金を費やして航空機や戦車などをイスラエルの持っていた数以上に揃えたのに、軍隊の士気や技量に差がついてしまったのは、国民へのナショナリズムの浸透度の違い?それとも、狼と羊との間にある特殊な関係が、イスラエルの軍とアラブ諸国の軍との間にもあったんでしょうか?
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