2010年7月22日木曜日

日本の植民地支配と朝鮮農民



樋口雄一著 同政社近現代史叢書13
2010年6月発行 本体2500円
タイトルには明示されていませんが、主に戦時下の様子が取りあげられています。で、冒頭に1930年代の慶尚南道蔚山の子供たちの身長について触れられています。当時の日本人成人の平均身長が157cm程度だったのに対して、同地の成人農民の平均身長は164cmと日本人平均より高くなっていました。ところが、子供たちの平均身長は日本人のそれと比較して各年齢ともに低くなっていたのだそうです。被植民地化以前に成長した当時の成人は日本人より平均身長が高く、それに対して植民地化後に生まれた子供たちは日本人の体格に劣るということは、日本の支配の影響が朝鮮の人たちの栄養状態に強い影響を与えていたことがうかがえます。これは京城大学医学部関係者が行った調査だそうですが、こういった事実はまったく知らなかったので驚くとともに、これを冒頭でとりあげた著者のセンスに感心しました。
日本への米を移出を第一の目的として朝鮮総督府は農政を行っていました。朝鮮には天水田の割合が高かったこが知られていますが、1939年の朝鮮の大旱害は日本でも米の不足を引き起こします。日本で消費される米の一部は朝鮮に
依存していたわけです。太平洋戦争開戦後1942年以降も、肥料・農具の不足や、徴用・徴兵・離村などによって労働力が不足したり、また統制のきびしさから生産意欲が阻害されたこともあって、やはり米の生産量は大きく減ったそうです。それでも一定の移出量を確保することを日本側は求め、朝鮮半島の食糧事情は日本よりも悪化し、朝鮮在住の日本人が古いカビの生えた豆粕を食べるようなこともあったとか。
内心は別という人もいたかも知れませんが、戦時中の日本人の多くは欲しがりません勝つまではの態度を見せ続けなければならない状況だったと思います。しかし、朝鮮の人たちには日本の勝利のためにすすんで自分たちの生活を犠牲にする意欲はまったく持たなかったでしょう。戦況の悪化によって経済状況が悪くなると、農業生産意欲の低下、農村からの離村、兵営からの逃亡、商工組合などで日本人から主導権を奪うなどの事例が多々あったことを本書は紹介しています。また、徴兵などによって朝鮮半島在住の青壮年日本人男性が減少しました。敗戦前から日本による統治が持続しそうもない状況が生まれていたように読めました
一般的によく語られている単なる植民地化による被害だけでなく、よその国が起こした戦争の被害を引き受ける羽目になった時代のことがよく書かれていて
学ぶ点の多い本でした。
どうでもいいような細かい疑問
  • 農具の不足が米の生産減少を来した点。不足があったのは確かだと思うのですが、これはどのくらい影響があったのでしょうか。私は農具の耐用年数を知らないのですが、あまり長持ちしないものなのでしょうね。また、101ページに「小作農民の多くは必需品たる農機具の新たな入手は困難になっていたと言えよう」とあります。もともと小作農は農具をほとんど所有せず、地主の所有する農具を借りていた旨の記載もありますが、それとの関係はどうなんでしょう。小作農が農具を新たに購入できなかったことが、生産の減少とストレートに結びつくのか、不思議です。もちろん小作農の存在と農具も充分に持てなかったことは問題なのですが。

  • 223ページに、朝鮮について「アジアでもっとも高いインフレ」とありますが、これは何かエビデンスがあるのでしょうか。満州・朝鮮よりもインフレ率が高かったことは朝鮮銀行券の発券高などをあげて書かれていましたが、朝鮮のインフレは占領下の中国や東南アジアに比較しても高かったのかどうか、気になります。


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