2008年12月15日月曜日

流通と幕藩権力


吉田伸之編 山川出版社
2004年11月発行 本体4000円

7人の筆者による紬、紙、石灰・蛎殻灰、蜜柑などの流通の状況に関する論考が収められています。史学会シンポジウム叢書と銘打った一冊で、先日読んだ「『人のつながり』の中世」が面白かったので買ってみたのですが、こちらはイマイチでした。内容が悪いと言うわけでは全然ないのですが、史料に則したことだけが論じられていて、その史料が大きな展望の中でどういう意味を持つのか・持たせたいのかが述べられていないのが、つまらなく感じた理由です。非専門家の私にとっては、個々の史料から読み取れる細かい事態そのものより、大きな構造の方が興味あるところなのです。江戸時代は史料も多いので、大風呂敷を広げにくい事情があるのかも知れません。

現代では企業にその利益に応じて法人税が課されていますが、江戸時代には流通業から適正額を算出して税金をとるうまいやり方がなかったので、会所仕法のように特定の商人に特権を与えて見返りに税金を徴収するか、藩自ら専売制をしくような形を試みたのだろうと思っています。会所制にせよ専売制にせよ、それまでなかった規制が流通に加えられるわけですから、生産者や特権に預かれない流通業者からの反発があるのは当たり前で、本書にとりあげられた事例でも会所仕法などの規制はみんなうまくいかなかったようです。

江戸で使う漆喰の原料の石灰(もしかすると「いしばい」と読むのかな)には八王子石灰と野州石灰の二つの産地があり、その代替品として江戸で貝殻を焼いて作られる蛎殻灰も使われていました。当時は蛎殻灰が安さから販売を伸ばしていて、八王子石灰は販売不振だったそうです。八王子石灰は江戸城普請時につかわれ、その関係で幕府に納める御用灰にもなっている由緒正しい石灰なので、利潤を生まなくなっても生産が続けられていたとか。この辺は不思議。

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