2008年12月22日月曜日

葉の寿命の生態学 個葉から生態系へ


菊沢喜八郎著 共立出版
2005年3月発行 本体3500円

2003年の日本生態学会50周年を記念して刊行されたモノグラフシリーズの一冊なのだそうです。A4で212ページと小さく薄めの本なので、3500円という価格は買うときにかなり高いなと感じました。しかも、文献リストと索引が40ページもあって、本文は170ページほどしかありません。しかし、体裁的にはページの上下と横の余白がかなり狭く、文章がつめこまれています。そして、実際に読んでみると中身の濃さにびっくりします。医学をはじめ自然科学系の雑誌には総説やreview articleが掲載されることが多いと思いますが、この本は170ページの総説をそのまま出版したという印象です。文献リストが長いのも当たり前です。葉の寿命の定義や調査方法、葉の特性や環境条件と寿命の関係、常緑性と落葉性などなどに関する本当に多数の報告が簡潔に紹介されていて、とても勉強になります。

単位面積あたりの葉の重量を示すLMAという指数があって、LMAと葉の寿命には正の相関があります。厚くて丈夫で化学防御物質をたくさん含んでいたりする葉は長持ちするわけですね。逆に、光合成速度と葉の寿命には負の相関があります。葉というものは作られてから時間がたつとともに光合成の効率が低下してゆくものなのだそうです。なので、光などの条件のよいところでは長持ちする、つまり高価なLMAの大きな葉をつけるよりも、粗末な葉を短期間で使い捨てどんどん新しいものに取り換えることの方が有利になるそうです。

黄葉・紅葉について、葉が黄色くなるのは窒素再吸収のためにクロロフィルが分解されて、元からあったカロテノイドの色が目立つようになるからだそうです。それに対してカエデなどの紅葉は、落葉の比較的直前にアントシアニンが生成されることで赤くなるそうです。アントシアニンは強光障害によって生じるフリーラジカルが窒素やリンの移動を阻害して、落葉前の栄養塩類の再吸収を阻害するのを防ぐという説が妥当だろうとされていました。

食害を防ぐためにアルカロイドを含んでいたり丈夫につくられている葉は、落葉してからも分解されにくくて、栄養塩類のリサイクルという点では不利になるのではと以前から思ってました。同じように考える人がいて、近年報告があったそうです。さらに進んで、アルカロイドを含んでいたり丈夫につくられている葉を食害防御を弱めてから落葉させるような適応はないものかとも想像しているのですが、そこまで触れた報告はないようでした。

葉は最終的に落葉するわけですが、個葉の落葉する時期がどのように決定されているかというメカニズムについても知りたいところです。また、葉自体が時分の引退時期を悟って落葉する準備を始めるのか、枝や樹木の他の部分から落葉するように引導を渡されるのかにも、興味があります。

しかし、本書には「一つの木の中に、光のよく当たる(よく稼げる)場所に枝をもっていれば、光のよく当たらない枝から資源を運び込んで光のよく当たる枝の光合成を高めたほうが個体全体としては有利である。ここで資源といっているのは、窒素のような直接光合成に関与する酵素類を作るための元素を考えている。実際こういうことが起こるメカニズムとしては、植物個体がホルモンなどを情報物質として使うことによって、枝の伸長を調節していると考えることが出来る。また、明るい元気な枝と暗い場所の元気のない枝とが資源をめぐって競争した結果このように差が出るのだと解釈したほうがよいかもしれない」という記述があるくらいです。生理学の本ではなく生態学の本だからなのかも知れませんが、この点はちょっと食い足りなく感じました。

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