2008年12月10日水曜日

日本人の経済観念


武田晴人著 岩波現代文庫 社会174
2008年11月発行 本体1100円

1999年に単行本として出版されたものを、現代文庫として再出版したものだそうです。日本論というと、一般的には日本のユニークさを強調するものが多いと思います。本書では、日本経済の特徴としてよく挙げられる、企業の永続性を求める考え方、競争と協調、信頼に基づくあいまいな契約、勤勉な日本人像、日本企業の国益思考などが、江戸時代以来のいろいろな史料をもとに検討されています。

先日亡くなった加藤周一の日本文学史序説が主張するように、日本の文化に他とは違った特徴が存在するのは確かだろうと思います。しかし、市場経済が浸透した江戸時代以降の経済観念にそれほど日本特有のものがあるとも思えない気もします。庶民まで経済的な効率を重視するようになっていったわけですから、表面的には独特に見える習慣・慣行・考え方でも、実はきちんと市場経済への適応を果たしていて、外国の経済観念と通底するものが多いでしょう。本書も、比較の対象の外国(特にアメリカ)の方が特殊なんじゃないのとか、歴史的に変遷があるから日本の特徴と言えないでしょなどという風に、どちらかというと「日本は特別」といった主張をたしなめるようなつくりになっているように読めました。

あと、筆者が論拠として取り上げている史料が比較的ユニークで面白く読めました。府中の大国魂神社の毎年一回の市に通って3年越しで鍋一個を買うエピソードなど宮本常一がいくつか引用されていたり、笠谷和比古の主君押込めの構造があったり。また、渡り職人や鉱夫の話などは、引用元の本の方も読んでみたくなりました。でも、入手困難なものが多そうなのが残念。

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