ポール・H・クラトスカ著 行人社
本体3000円 2005年8月発行
「巷間いわれていることは事実に相違していることが多い。たとえば、英国が植民地を放棄したのはこの戦争に起因しているとか、日本はマレー半島の豊富な天然資源を獲得するためにマラヤを制圧したとか、日本は暴政を敷いて恐怖政治を行ったとか、華人は真っ向から日本を敵対視したのに対して、マレー人は協力的であり、インド人は日本がインドの独立を助けるという約束で説き伏せられていた、などである。このような見方は通説となっているが、どれも良くて部分的に正しいだけで、一般的には不正確な点が多々ある」
はじめにという部分にはこのように書かれていますが、これが本書の簡潔な説明になっています。400ページにわたって、上記の根拠となるようなエピソードを淡々とつづられています。戦前のマレーの状況から始まって、シンガポール陥落までの戦闘、占領期の統治・経済など、そして日本敗戦後の処理などまで、一読して勉強になったという感じです。参考文献リストもかなり詳細です。
著者がアメリカ人だからかも知れませんが、シンガポール占領後の華人の投獄・処刑を含めて、ほんとに淡々と語られているのです。なので、中国での日本軍占領地に関するものを読む時のような、目を背けたくなるような描写はありませんでした。
しかし、マラヤの産品を充分に吸収して錫やゴム産業を遊休化させず、充分な消費物資や食料をマラヤに供給することに、日本は失敗しています。日本の敗戦によるイギリス軍の帰還が熱狂的に迎えられたという記述は、日本の占領政策の不成功を雄弁に物語っています。
内容とは関係ないのですが、 装丁がみすず書房の本にそっくり。購入して自宅で読み始めるまで、みすず書房の本かと思っていました。ただ、この種の内容のこのボリュームの本としては、3000円という定価はとても安いと思います。行人社さんの本を買うのは初めてですが、かなりがんばっている値付けのような。
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