2008年2月2日土曜日

疾病と世界史 上

ウィリアム・H・マクニール著  中公文庫
本体1143円  2007年12月発行

ヨーロッパ覇権以前(ジャネット・L.アブー=ルゴド、岩波書店)、リオリエント(アンドレ・グンダー・フランク、藤原書店)などなど、多数の歴史書の中で引用されたり、参考図書として挙げられている「疾病と世界史」が復刊されました。原著は1975年刊行で、日本語版も1985年に新潮社から発行されていたとのことですが、これまで入手の機会がなかったので、早速購入しました。

もともと一冊本だったのを上下2巻に分け、しかも文庫とは思えない各1143円というかなりのお値段がつけられています。予想販売数がかなり少ないのかも知れませんが、名著復刊とはいえ中央公論新社もあくどい値段の付け方だなぁという感がなくはありません。まあ、きちんと注をつけたまま文庫化されている点に免じて、赦してあげましょう。

アステカ・インカ帝国の滅亡に旧大陸起源の感染症が大きく影響したと考えられることが本書下巻で論じられていますが、銃・病原菌・鉄(ジャレド・ダイアモンド、草思社)や1491(チャールズ・C・マン、NHK出版)などはこのアイデアから生まれた著作のような気がします。なので、本書の内容の多くは、私がこれまでに読んだことのある、本書を引用している本に述べ尽くされていて、本書を手にとっても新たな発見はないのではないかと思っていました。しかし、実際に読み始めてみて、その予想が間違いだったことに気付きました。

例えば、「人類がアフリカに誕生したのだとすると、ヒト科の霊長類がゆっくりと進化して人類の集団にまで達するにはかなりの時間がかかったわけだから、当然、周囲の生物の方でも、人類の活動によってもたらされる危険に対処すべく、適応を遂げる余裕が充分にあったはずである。逆の見方をすれば、アフリカでヒトに寄生する生物が非常に多様性に富んでいるという事実は、アフリカが人類の主な揺籃の地だったことを示しているということになる」や、「紀元前四万年から同一万年の間の、人類の異常なほどの発展には、自然環境への文化的適応がまず決定的だったことは否定し得ないが、実はもう一つ無視できない要因がある。われわれの先祖達が熱帯の自然環境をあとにした時、彼らはそれまでの人類、また今日でも熱帯に住む人類が曝されている寄生生物や病原体から逃れることが出来たのである。そこで健康と活力が改善され、人口の増加はこれまでに例のない規模で繰り広げられることになった」という記載があります。これだけなら、そうだろうなと思う程度です。

しかし、そこから「温帯地方や同じ熱帯でもアメリカ大陸その他、支配的生態系がアフリカほど複雑精緻ではなく、したがってそれを単純化しようとする人類の行動に対する抵抗力が強くない地方に比べて、アフリカが文明の進歩から取り残されがちな最大の理由なのである」と導き出されてみると、立証も反証もできないとは思うけれど、とても魅力的です。

また、「文明の歴史のほんの黎明期にあって、成功した略奪者とは征服者になった連中のことだった。つまり、収穫物の全部ではなく一部だけを奪うという形で農耕民を収奪する手法を編み出した者たちである … 農耕民は自分たちの生存に必要とする以上の穀物その他の作物を生産することで、こうした形の略奪に耐えるようになる」という記載は、まあ言われてみればあたりまえみたいです。

しかし、「この余剰生産物は、ヒトによるマクロ寄生に抵抗するための抗体と見なすことができる。成功した政治権力とは、租税、年貢を納める者に、外敵の侵入と破滅的な略奪に対する免疫性を与えることのできる存在である。それは、軽度の感染がその宿主に免疫による抵抗力をつけさせ、死をもたらす悪性の病気の侵入から守ってくれるのと等しい」と続けられているのを読むと、政府とendemic(常在する感染症)との巧みな比喩に関心してしまいます。

0 件のコメント: