2008年4月16日水曜日

海域アジア史研究入門


桃木至朗編 岩波書店 
本体2800円 2008年3月発行

単なる、アジア史研究入門というタイトルの本は、編集・出版しにくいのではと想像します。西アジア・南アジアの国と東アジアの国の歴史をひとまとめにして扱う必然性が感じれらないと思うからです。

東アジア史研究入門というタイトルの本なら実在してもおかしくなさそうです。でも、中国・朝鮮半島・日本の政治・経済(農業)・文化史に中国北方の歴史を加えて、とてもオーソドックス過ぎるものになりそう。

ところが、海域アジア史と言われると、海域アジアという言葉自体にはなじみがなくとも、西アジア・南アジア・東南アジア・東アジアの交易・外交や宗教・文化のつながりなどが連想され、面白そうに感じられますよね。

もともと自分の中には、なぜ日本は日中戦争・太平洋戦争を始める羽目になったのかということに端を発して、なぜ東アジアの中で日本だけが帝国主義国になったのかにつながる問題意識がありました。それに加えて、ブローデルやウォーラーステインを読むことによって経済史に対する興味が強まったという経緯があります。海のアジア・海域アジアに関する本もそれなりに読んでいたので、本屋さんで平積みにしてあったこの本を見て、即買ってしまいました。

内容は、通時的パースペクティブとして9世紀から19世紀近代までを扱う17の章と、 各論として、貿易陶磁や漂流, 漂流記, 海難などを扱う8つの章に分かれています。、通時的パースペクティブの各章は、入門と本書のタイトルに謳われているように、教科書的に記述されています。

ただ、単なる教科書ではなく、記述ごとにきちんとリファレンスがつけられています。というか、実際には入門者が読むべき文献の主張をつらねて、教科書のような記述に編み上げられている感じです。

リファレンスの量は膨大で、和・中・韓文文献目録として39ページ、欧文文献目録として11ページもありました。この本の価値の一つはこのリファレンスだと思います。いくつも読みたい本が挙げられていたので、買って読もうと思います。

また、リファレンスに挙げられている参照文献同士の関係についてまで説明されていることも本書の特徴です。リファレンスに挙げられている本の中には私の読んだことのある本もかなりたくさんあります。ただ、私は専門家ではないし、系統的な読み方ではなく乱読してるだけだったので、それぞれの本を興味深く読んだのは確かでも、学説史的なつながりなどまでをきちんと理解できていたわけではありませんでした。その点、この本を読んで、過去の自分のこの分野の読書がかなり整理できた感じがしました。

自分の読後感からすると、この本はこの分野に興味のある非専門家にも充分に役立つ啓蒙書でした。しかし、本書は海域アジア史を志す学生・院生や「もともと海域史など考えたこともなく、どう扱ってよいか分からないのに、立場上これを研究または教育しなければならない研究者・教員」を主な対象として書かれたとのことです。でも、学部3年生には難しすぎるような気も。

それと、研究者や教員も対象になってているというのも興味深い点です。「もともと海域史など考えたこともなく、どう扱ってよいか分からないのに、立場上これを教育しなければならない教員」というのは何となく分かるような気がします。お気の毒様。

でも、「もともと海域史など考えたこともなく、どう扱ってよいか分からないのに、立場上これを研究しなければならない研究者」って存在するんでしょうか?興味があって面白いから研究するというのではなく、立場上という理由で研究するのって何だかなあ。こういうケースって本当にあるんでしょうかね。

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