The Great Divergenceでは、18世紀までヨーロッパ・中国・日本の中核地域の経済発展の程度に大きな差がなかったことが繰り返し述べられています。そんな本書を読みながら、脳裏に浮かんでしまう本がE.L.ジョーンズのヨーロッパの奇跡(名古屋大学出版会、2000年)と経済成長の世界史(名古屋大学出版会、2007年)、そしてアンガス・マディソンの世界経済の成長史(東洋経済新報社、2000年)と経済統計で見る世界経済2000年史(柏書房、2004年)です。
E.L.ジョーンズは、「ヨーロッパの奇跡」というタイトルからも分かるように、ヨーロッパのみが享受できた環境、中央アジアからの侵入を免れていたこと、政治制度、諸国家併存体制などのおかげで、ヨーロッパは持続可能な成長に成功したと述べています。「経済成長の世界史」の方では、ユーラシアのもう片方の端っこに位置し、やはり中央アジアからの侵入を免れた日本の事例も詳しく述べてくれていますが、ヨーロッパは特別という感は否めません。
アンガス・マディソンは「経済統計で見る世界経済2000年史」の中でで、1000年から1950年までを扱う第2章に、『「西洋」の発展が世界の他の諸地域に与えた影響』というタイトルをつけています。OECDでまとめた本だということですが、ちょっとびっくりするような名前の章です。
またアンガス・マディソンは、ヨーロッパは1000年頃から成長を始め、「西ヨーロッパは14世紀に、1人当たりの経済力(実質GDP)で中国(アジア経済のリーダー国)を追い越した。その後には、中国と残りのアジア諸国の大部分は、20世紀後半に至るまでは、1人当たりの経済力の面では、多かれ少なかれ停滞的な状態を続けた」
「日本はアジアの標準的な姿に対して例外になるものであった。17世紀から18世紀をへて19世紀の前半にいたるまでのあいだに、日本は1人当たり実質所得で中国に追いつき、追い越した」とも述べています。
この記述を裏付けるように、1700年の1人当たり実質GDPは、イギリス1250、西ヨーロッパ平均1024、中国600、日本570と推算されています。
The Great Divergenceでは消費水準について、砂糖の消費量、平均余命、摂取カロリーなどを指標にして、18世紀までは西ヨーロッパ・中国・日本が同程度であったことが主張されています。アンガス・マディソンの主張するヨーロッパの1人当たりGDPが中国や日本のGDPより大きかったことと、どちらが正しいのでしょうか。
私の経験ですが、スペインに旅行した時に、ある企業の研修施設でレクチャーを受けました。その建物はゴシック様式の石造りの重厚なものだったのですが、13世紀に建てられた領主の屋敷だったそうです。日本だったら鎌倉時代の建物ですから、文化財に指定されていておかしくはなく、ふつうの人が日常的に利用するなんて考えられなさそう。まあ、日本ではああいう石造の建築物は地震で倒壊してしまうでしょうから、建物の寿命が短いのはやむを得ないことです。法隆寺など古くからの木造建築物は建て替えをくり返しているので、石造の建物と同列には論じられませんし。
ジョーンズはヨーロッパでは建築・建造物に被害を与える地震や洪水などの天災が少なかったことを指摘しています。上記の例を考えても、少なくとも建物などの固定資産については正しいのではと思います。ひいてはこの天災の少なさのおかげで、ヨーロッパの固定資産のストックは日本より多くなっていったことでしょう。また、 産業革命のずっと前から、水車・風車・製材機械・港のクレーンなど、木鉄混合の大きな機械が広く使われていた点もヨーロッパの特徴だと思います。なので、国富という点では日本よりヨーロッパの方が上だったように思えます。
日本人よりも、西ヨーロッパの人の方が体格が大きいのは昔からのことですよね(南ヨーロッパの人は同じくらいの体格かな)。また、日本よりも西ヨーロッパの方が総じて寒い気候です。なので、日本人よりも西ヨーロッパの人の方がたくさん食べていたし、たくさん着ていたし、寒さを防げる家に住んでいたのではないのでしょうか。もしヨーロッパ人の方がたくさん食べてたくさん着ていたとすれば、同じ生活水準を実現するには1人当たりGDPが日本人よりも西ヨーロッパの方が高くないといけないはず。それとも、産業革命以前でも日本人の労働強度の方が高くて、体重比よりもたくさん食べていたんでんでしょうか?
まあ、こういった点をまとめると、産業革命以前のいずれかの時期にヨーロッパのGDPが中国や日本の1人当たりGDPを上回っていたというマディソンの主張の方が妥当なのではと感じます。もちろん、ヨーロッパが産業革命に成功したのはGDPで上回っていたからではなく、新大陸を利用できたからという点ではThe Great Divergenceの意見の方に賛成です。産業革命前のGDP・生活水準に差があっったとしても、産業革命への新大陸の重要性・貢献度が低くなるわけではないですから。
The Great Divergenceの感想
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