2008年4月6日日曜日
日本中世の経済構造
桜井英治著 岩波書店
本体8300円 1996年1月発行
貨幣の地域史のなかの「銭貨のダイナミズム」という論文が、よくまとまっていて分かりやすいものだったので、同じ著者のこの本を購入してみました。ケース入りの専門書なのでお値段はかなりのもの。でも私の買ったのは3刷なので、それなりに売れているようです。
11本の論文が収められているのですが、第一章の「中世職人の経営独占とその解体」が一番難解でした。大工識についての論文なのですが、識一般については何となく分かっているつもりでしたが、大工識についての知識がなく、しかも文章も生硬で読みにくく、一度読んだ後にもう一度ゆっくり読み直して漸く理解できた感じです。
大工識というのは、中世の寺社の建築・修理にあたった建築職人が、その寺社で仕事する権利を自分のものとして主張するなわばりのようなものです。寺社は建築職人を自由に選ぶことが出来ずに大工識をもった職人に任せるしかなく、大工識を持った職人はその縄張りで仕事する権利を売り買いできるという仕組みです。現代的には、やくざがみかじめ料を取り立てるなわばりみたいな感じでしょうか。
この第一章の原型は修論だったそうで、それを史学雑誌に掲載したものだそうです。専門家以外が読むことを想定して書かれてはいないはずなので、難しく感じたのも当たり前です。ただ、同じ内容を扱った「雇用の成立と無縁の原理」という論文が第二章にあり、こちらは私にも分かりやすく書かれています。第一章と二章の並び方が逆になっていれば、悩まずに済んだのにという感じでした。
第三章には、甲斐黒川金山の金山衆について論じられています。金山衆には親方子方からなる組があったこと、金山衆には金山の地元に住んでた人と離れた農村に住んでた人がいて、それぞれ直接採掘にあたるか運搬などにあたるかしていたことなどが述べられています。しかもこれらの結論が、史料に書かれている内容からのみ導き出されているわけではなく、史料がどの家に伝わったのか、どんな文書が残りやすかったかなど 史料の残存状況などのメタ情報から明らかにされている点がとてもシャープに感じられました。
第四章以降には、立庭、割符(さいふ、為替手形)、山賊・海賊など中世の経済行為・意識を扱った論考が並べられています。史料から得られる結論に説得性があり、良い読後感を持った論文集でした。高いけれど、現代に住む私たちの常識とは異なる中世の経済に関する新たな知見が得られ、買って損はしなかったと感じました。
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