2008年8月20日水曜日

江戸の高利貸


北原進著 吉川弘文館
本体1700円 2008年1月発行

旗本・御家人と札差というサブタイトルがついていますが、主に札差しについて扱った本です。もともと、「江戸の札差」とうタイトルで1985年に江戸選書一冊として出版されたものを復刊したのだそうです。

幕臣のうち、知行地をもつ上層の旗本を除いて、その他多くの旗本・御家人は一年に3回、蔵前にある幕府の米蔵から、米と一部お金で給料を支払われていました。米を支給された武士は、生活費としてつかうお金を入手するために米を換金する必要があります。個々の武士が、米を受け取って米屋まで運搬して売り払うのは手間がかかりますから、それを代行して行うのが札差しの業務の始まりでした。米の支給は年に3回ですから、その間にお金の必要となった武士への短期の金融業務も営むようになりました。

やがては、江戸での贅沢な生活に慣れて赤字になった武士家計への金融業も営むようになります。武士は借金があるかぎり札差しを別の札差しに替えることが許されていませんでしたので、定期的に支給される給与を握った札差しは金融業者として経済的に大繁栄したわけです。借金漬けになった幕臣を救うために、幕府は相対済まし令や棄捐令などを出しましたが、消費生活の変化に伴う幕臣の家計の恒常的な赤字が原因ですから、問題の解決にはつながりませんでした。

幕府から幕臣に支給されるのがずっと米であり続けた(一部はお金でも支給されたそうですが)のはどうしてなんでしょう。何石取り・何俵取り・何人扶持というように、サラリーの額が米で表示されていて、それが仕来りとなっていたからだとは思います。でも、知行地を持っている一部の上層旗本以外はサラリーマンなのですから、幕府が米相場の有利なときに米を換金して、幕臣へはお金で支給するようにすれば、少なくとも札差しが米価の変動から得ていた利益の分だけでも、武士の側が手にすることもできたろうにと思えてしまいます。

ハードカバーの本ですが、内容は一般向けの新書といった印象です。札差しについて、その沿革、どんな仕事をしていたのか、江戸の豪商としての札差しなどについて分かりやすく説明されていて、新書としたら1700円は高いけれど、買って損のない好著でした。

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