2008年8月8日金曜日

日本不動産業史

橘川武郎・粕谷誠編 
名古屋大学出版会
2007年9月発行 本体5500円

産業形成からポストバブル期までというサブタイトルの示すとおり、前史である江戸期から、バブル崩壊後の現在に至るまでを対象とした不動産業の通史です。昨年9月に発行されたときに書店で手にとって、買おうか買うまいか迷った本でした。結局、先週購入しこうやって読んだわけですが、昨年購入を躊躇した直感は正しかったようです。決して、できが悪い本だとというわけではありません。ただ、すごくバランスが悪いのです。

江戸期から現在までを本文366ページにまとめるのですから、広く浅くになりがちです。しかも、高度成長期に約70ページ、それ以降の現在までに約100ページが割り当てられています。なので、私が主に興味のあった昭和戦前期までの記述は120ページ程度しかありませんでした。

この時期に関しては史料の制約もあるとのことです。なので、丸の内オフィス街と三菱、京浜工業地帯の埋め立てと浅野、私鉄と住宅分譲などなど、比較的よく知られたエピソードが主につづられています。少なくともこの時代に関しては、知りたいことが書かれていないという印象です。

例えば、明治から昭和戦前期に個人が住宅を購入する際の資金はどうやって調達していたんでしょう。数年前までは個人が住宅を購入する際には住宅金融公庫から融資をうけることが当たり前で、私自身も融資を受けたことがあります。本書にも「高度成長初期、住宅ローンにおいて重要な役割を担ったのは、住宅金融公庫で」、1955年の金融機関の住宅ローン貸出残高の98.8%を占めたとありました。こんなにシェアの高い金融機関がなかった戦前はどうなっていたのか気になります。

また、現在でもそうですが、小規模の土地や建物を所有していて、不動産業者を通して賃貸に出している人がたくさんいます。こういった零細な不動産業者のありようについての記述も昭和戦前期までに関しては詳しくありません。このあたりは、個々の事例をたくさん積み上げる研究がこれから必要な分野なのかも知れませんが。

ただ、本書で新たに得た知識もあります。それは農地改革についてです。「農地改革実施時点では、改革の対象となった農地が耕作されなくなった場合、これを政府が統制価格により買い戻す、先買い権規定が定められていた。しかし、この規定は1950年土地台帳法改正による賃貸価格の廃止により効力を失っており、これによって農地についての地価統制は解除され、創設自作農地についても転用の途が開かれ」たのだそうです。

農地を解放させられた地主が、創設自作農地が農地解放後10年も経たないのに工場用地などに転用されたことに不満をもらしていたとの記述も本書にはありますが、もっともな不満です。後になって大都市圏の創設自作農地は、宅地などとして転売され多額の収入を創設自作農家にもたらしたり、賃貸収入をもたらしたりなど、元地主ならずとも社会的正義に反すると感じます。どうして、こんな不公平の変更が実現したのか興味があるところですが、保守党が創設自作農を自らの票田にするためにこんな風にしたんでしょうか。機会があったら調べてみよう。

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