2008年8月31日日曜日
古代インド文明の謎
堀晄著 吉川弘文館歴史文化ライブラリー251
2008年3月発行 本体1700円
南ロシアの黒海沿岸ステップに住んでいた遊牧民であるアーリア人が、インダス文明の衰退期にインドに侵入してきたという、日本の世界史の教科書にも書かれている有名な説を虚構だとして、著者独自の仮説を提示している本です。著者は、北シリアがインド・ヨーロッパ語族の故地で、ここから新石器時代に農耕民がイランを通ってインドにまで拡がったとしています。
アーリヤ人(本書ではアーリアではなくアーリヤとしています)の侵入説を「とんでも学説ではないのか?」と著書は書いていますが、本書の方こそとんでも本なのではと思わせるような感を受ける点が多々ありました。著者は、インダス文字は文字ではない、「社会で尊敬されていた行者集団による呪文」だとしていますが、読んでいて根拠がとても薄弱です。
また、奇妙な石製錘というタイトルで2つの石製の物体の写真が載せられています。「最近、東京で確認したもの」だとのことですが、出土地や出土の状況がはっきりしないのに、ホンモノの遺物と断定して大丈夫なんでしょうか。ましてや、これがオリンピックみたいな投擲の競技で使われたなどとまで書くにいたっては、妄想としか思えません。
また、農耕民の拡散にあたっては、「野生の動植物は全て天敵であり、根絶やしにする必要がある」、ヨーロッパでは森を焼き払ってフィールドをつくった時の厚い灰層があると書かれています。焼き畑にしてもそうですが、森林を焼き払った灰の層が発掘されることなんてあるんでしょうか?
日本の学会の定説とは違った説を唱えているそうなので、ご苦労はわかりますが、必ずしもアーリヤ人征服説を信奉する人ばかりではないと思います。例えば、先日読んだ 農耕起源の人類史なんかは、 インドアーリア語族の起源地をアナトリアとしていますが、そこから西にインド・イランと新石器時代に農耕民が拡がっていったとする説で、この著者と近いのかなと思います。タイトルにひかれて買ってしまいましたが、まあ1700円の価値はとてもないなという読後感でした。
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